今日の辻邦生──もう一人の咲耶

昨日とりあげた「樹の声海の声」の主人公の名前は咲耶といいますが、「夏の海の色」に登場する女性の名前も咲耶でした。今気づきました。なんで気づかなかったのか。
「夏の海の色」は、100の短篇からなる「ある生涯の7つの場所」シリーズに収められている短篇です。夏の城下町で過ごす主人公と、夫と別れ、子にも先立たれた若い女との交流が描かれています。その若い女の名前が咲耶です。
セミが鳴きしきる、日の当たる夏の城下町は、私にとって夏の原風景のようなものになりました。そんな城下町に実際に行ったことはありませんが、この本の印象が強すぎて、イメージが出来上がってしまっています。
ちなみに、この「夏の海の色」に登場する海辺の街は、私の想像では湯河原だと思います。辻邦生は戦争当時湯河原に疎開しています。この物語に、いかのような箇所があります。


そうした夜、寝床から這い出して窓から外を覗くと、月が暗い海上に上っていて、並が銀色に輝き、本堂の裏手の松林の影が、黒く月光のなかに浮び上がるのが見えた。

私は、湯河原でこの風景と同じ風景を観たことがあるのです。白く輝く月光が黒黒とした太平洋上に燦と輝き、大洋のうねりが月の光を揺らめくように映し出していました。
きっと同じ場所で観たに違いない、そう思ってしまうのでした。
あすで仕事は終わり。でも週末も仕事があります。

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