Tsuji Kunio

廻廊にて (新潮文庫 つ 3-2)
辻 邦生
新潮社
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辻邦生がそう思っていたかどうかはわかりませんが、辻文学のテーマの一つとして「性急な改革は失敗する」という物があると思っています。

たとえば、「背教者ユリアヌス」におけるユリアヌスの失敗、「春の戴冠」におけるサヴォナローラの失敗、「光の大地」における教団の失敗、「廻廊にて」におけるマーシャの挫折などなど。あるいは、「サラマンカの手帖から」で、主人公たちが、サラマンカを去るのもそれに当たるかもしれません。

結局は、真実を目指したとしても、それは現実に必ず跳ね返されるわけです。それはどうしようもない真理。なぜなら、現実が、それが道理にあおうがあうまいが、現実界においてはそれが正しいからです。

がゆえに、そうではない粘り強い取組みが必要とされる、というのが、20年以上辻邦生を読んできた結論の一つです。

こうした、正しさと現実との「ずれ」というものが、あらゆる痛ましい出来事の原因になっている。昨今の事件をみて、そう思わざるを得ません。

今日も短く。グーテナハトです。