Book

最近興味を持って読んでいるこれらの本。

ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル: 時代に埋もれた女性作曲家の生涯
ウテ ビュヒター=レーマー
春風社
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ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルという方の伝記二冊です。この方、フェリクス・メンデルスゾーン=バルトルディの姉に当たる方です。みなさまはご存知でいらっしゃいましたか? 私は最近まで存じませんでした。

ファニーは、80年代以降、見直されつつあるようで、日本語の文献はこちらの二冊があり、フェリクス・メンデルスゾーンの伝記の随所にも登場しているようです。

今日、5月14日は、ファニーのご命日です。ファニーは1847年に41歳の若さで亡くなりました。

じつは、このファニーという方は作曲やピアノに秀でた方で、フェリクスがライバル視していたほどだったようです。

メンデルスゾーンがヴィクトリア女王と謁見したときに、女王が選んだメンデルスゾーンのお気に入りの歌曲は、実は、フェリクスの作ではなく、ファニーが作ったものをフェリクスの曲として出版したものだったとか。(ゴーストライター?)

また、フェリクスの業績として知られるマタイ受難曲の復活公演においてもファニーは重要な役割を果たしたそうです。

噂では、グノーの「アヴェ・マリア」もファニーが作ったという説があるらしいです。。

才能ある女性でしたが、因襲に縛られ、家庭を守る良き主婦としての役割を全うすることを一義として、演奏や作曲で活躍したというわけではありませんでした。19世紀前半で、革命後とはいえ、やはりこうしたモラルがまだあった時代なのですね。

ウテ・ビュヒター=レーマーさんの「ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル:時代に埋もれた女性作曲家の生涯」は、女性からの視点で、女性であるがゆえに、音楽家として活躍できなかったファニーの無念さのようなものが実感できる快作でした。まあ、こうした性別に拠る役割というのは、女性が故に、ということもあるでしょうが、男性故に、ということもあるでしょうから、どなたが読まれてもなにか感じることがあります。

山下剛さんの「もう一人のメンデルスゾーン─ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの生涯」は、実にしっかりとした伝記という感じです。編年の記述は実に理性的で、歴史的事実としてのファニーの生涯を俯瞰できる素晴らしい書籍でした。というか、あのグノーが《ファウスト》を書いたのは、ファニーの影響なんですね、なんてことも実に鮮やかに描かれていました。

二冊を読んで、19世紀前半のドイツの空気が少しかいまみえたような気分です。ウィーン会議後の反動のヨーロッパにおいて、失われた理想のようなものを懐かしむようなシーンもあって、なにか胸に迫るものがありました。

楽曲もNMLでいくらか聴けます。あのトリスタン和音を、《トリスタンとイゾルデ》より前に使っていたという話もあり、なかなか興味深いです。

ではグーテナハトです。おやすみなさい。