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Sat
10
05
2008
今日は朝から雨模様。昨日は帰りが遅かったので少々疲れ気味。朝は早く起きられたのですが、午前中はなんだか疲れてしまって、どうにも気が引き締まりません。
このコンディションで予習なしで「軍人たち」に臨みます。だいじょうぶかなあ、と少し不安でした。予約していたCDは結局届かないまま。予習なしですので、とりあえず入場してすぐにパンフレットを買って熟読態勢。うーむ、なんだか「ヴォイツェック」と「ルル」を彷彿させるようなあらす じです。
幕が開くと、大勢の真っ白な男女が舞台上にいろいろな方向を向いて並んでいます。頭も顔も洋服も靴もみんな真っ白。曲調は、なんだかベルクかウェーベルンのイメージ。そのうちに、一人の女性を遠巻きにひとりぼっちにさせます。その女性が主人公のマリー。舞台は横に長い立方体のなかに置かれていて、黒い壁に白銀の殴り書きがたくさん。まずは白と黒の色の世界を見せつけられます。
マリーは、装身具商人の娘で、織物商人のシュトルツィウスと相思相愛にあります。マリーは青い服を着ていて、堅実な市民女性と言った風体。
ところが、軍人デポルト男爵から芝居に誘われます。デポルト男爵は舞台奥の窓から姿を見せるのですが、やはり顔を白く塗り、頭もスキンヘッドで真っ白。ただ、軍服は真っ赤。窓の向こう側も真っ赤な世界。さしずめ、社会の背面にある軍隊の世界を暗示しているのか、というところ。今までの白と黒の世界に、赤い軍人の世界が浸食してきます。
デポルト男爵の誘いにマリーは舞い上がってしまいますが、マリーの父親は軍人の品行の悪さをよく分かっているので芝居に行かないように諭すのですが、もしや男爵と結婚することになれば、貴族階級に入り込むことが出来るという打算的な考えも頭に入ってくる。もちろん、シュトルツィウスとのことも維持しておくように、と商人らしい手堅さをも見せる訳です。
シュトルツィウスは軍人たちがたむろっているカフェに姿を見せる。カフェには軍人たちがたくさん。もちろん全員真っ赤な制服を着ていて、カフェの椅子もテーブルも真っ赤。カードに興じ、酒を飲む軍人たち。テーブルにカードを放る音や、コップを置く音、スプーンで叩く音は、スコアに指示されていると言うわけで、パーカッションの役目を果たしています。
カフェの机を軍人たちが動かして、小さな舞台を作り出すと、そこに淡いグリーンのドレスを着て赤い制帽を着た夜の女が現れて、ジャズ・コンボが演奏する4ビートに乗って、扇情的なダンスを繰り広げ、三人の軍人(ダンサー)と絡み合う。揶揄する軍人たち。ジャズコンボは、クラリネット、トランペット、ギター、ベースの四人で、パーカッションが4ビートを刻みます。パーカッションの刻みはジャズ的グルーヴ感はありませんでしたが、四人のコンボはグルーヴしていて、ダンサーとうまくコラボレートしている。この場面、ものすごく印象的でした。
そこにシュトルツィウスが現れるのですが、マリーをデポルトに寝取られたといって、軍人たちに笑われます。シュトルツィウスはマリーに非難の手紙を書きますが、デポルトは却って、マリーに絶縁状を書かせようとします。ここで、マリーの老母が登場するのですが、椅子に座って鏡を持っている。あまりに不気味な老母の姿。マリーは、赤い靴を履いたりしていて、徐々に軍人たちの影響下に入っているのが示唆されています。
シュトルツィウスは、マリーからの手紙に打ちのめされます。シュトルツィウスは舞台左側から布を引っ張ってきて、その布をシュトルツィウスの母が追いかけるように裁断していきます。シュトルツィウスの持つマリーから手紙を、母親がはさみで切り刻んでしまいます。シュトルツィウスは復讐を決意します。オーケストラはマタイ受難曲からの引用を演奏。
立方体の舞台の奥の壁が徐々に傾きはじめ、傾いた壁の奥から兵士たちがまるで爬虫類のように匍匐前進してマリーに迫ってくる。強烈な映像。夢にでますぜ、これは。
ここまでで1幕から2幕が終了。あまりに刺激的で強烈な舞台、演出、演奏なので、すごい充実感。個人的にはものすごく楽しめていて(楽しいという言葉がふさわしいかどうかは分かりませんが)、ヴェルディやプッチーニがオペラである、とする向きには本当に退屈だったようで、「もう帰ろうか……」とつぶやいている年配の男性がいたりしました。
3幕のはじめ。女性が兵士たちの好色な目にさらされている。兵士たちの不品行が象徴的に描かれています。マリーは、デポルトからマリ大尉に相手を変えています。そして、ラ・ロシュ伯爵へとどんどん相手を変えている。冒頭の市民的なマリーの姿は全くない。
突然、真っ黄色なロココ調の衣装を着たラ・ロシュ伯爵夫人が登場。息子のラ・ロシュ伯爵が品行が、悪いという噂が立っているマリーとつきあっていることを重く見ていて、息子に旅に出させておいて、マリーには面倒をみてあげよう、などと提案する。マリーの衣装もいつの間にか伯爵夫人と同じ黄色い衣装。だが、結局は衣装を脱がされてしまいます。脱がされた衣装を集めるマリーの老母。どうして老母がココに出てくるのか不明。でもいいんです。なんでも。もう何が何だか訳が分からない。物語的必然性というより、すでに感覚的必然性で、あらゆる要素が縦横無尽に関係し合っていて、それがすでに自明であるかのように提示されてきます。そうした意外性の刺激の強さ。
マリーは軍人たちに囲まれてしまい、囲みを解かれたときには、血濡れた服を着て、スキンヘッドになっている。ここで舞台は右に30度傾く。舞台が傾くなんて、腰を抜かしました。マリーは必死に傾斜を昇ろうとするのですが、昇ることが出来ない。マリーが落ちぶれていくのが象徴されています。シュトルツィウスは、マリ大尉の従卒になっているのですが、スープに毒をまぜて、デポルトに飲ませ、自分も毒をあおって死にます。
転落したマリーは、いまや物乞いをしている。物乞いの相手は自分の父親。だが父親はマリーであることが分からない。マリーは三日も食事を食べていないのだ、と必死にこいねがうのだが、父親は聞き入れない。ここで瞬間的に4ビートのジャズコンボの演奏。マリーが一瞬扇情的な身振りをするのだが、効力を失っている。父親は最後まで、マリーであることに気づかず、「わが娘も何処かでこうして物乞いをしているかもしれない」とつぶやきながら去っていきます。
劇場の四方八方に配置されたスピーカーから悲鳴や怒声が聞こえてくる。そして軍人たちが行進する軍靴の硬い音がどんどん大きくなっていく。心をかき回されるような不安な気持になります。軍靴の音が消えると、弦楽器が小さく音を刻み、舞台には、また真っ白な市民たちがたくさん並んでいる。そしてマリーを疎外していく……。
印象的な台詞。
「不正を身に受けるものは震えおののくばかりなのか。不正を行うものだけが楽しく生きられるのか」
神は死んだのですね。そう言うわけで、こうなったのですよ。思うところたくさんあるなあ。
登場した色は、白、赤、青、黄。それぞれ、(傍観者としての)市民、軍人、市民、貴族を表わしているようです。黒を基調とした舞台上で原色の衣装を見せられただけで視覚的な刺激は大きいです。
軍人たちは皆赤い軍服を着て、スキンヘッドで、頭も顔もしろく塗りたくっていますので、もうだれがデポルトで誰がマリ大尉かというのは全く分かりません。おそらくは、軍人のアノニムな本質を表現したかったのでしょう。軍人は多かれ少なかれそう言うものだ、と言う風に。
曲は冒頭でも触れたとおり、ベルクに似ています。と言うか、ヴォイツェックの影響ありだなあ、とおもいました。
しかし、全身目になって舞台と字幕に釘付けだったので、演奏の善し悪しは判断できなかったです。耳には成りきれなかったと言うことです。予習もしていませんでしたので。
ですが、結果から言えば、予習していなかった方が良かったかも。やはり、ビジュアル面や音響面で大きなインパクトのある曲ですので、音楽だけ聴いていたら変な先入観が出来ていたかもしれませんでした。結果、CD届かなくてOKと言うことで(っていうか、いまごろ「発送しました」っていうメールがきてました。しっかりして欲しいですよ、タワレコ殿)。
なんだか、ツィンマーマンの音楽を効くと言うよりは、ウィリー・デッカーの演出に灼かれてしまったという感じです。もともとは、どうやらアムステルダム・ネザーランド・オペラでの演出を持ってきたと言うことのようで、新国立劇場完全オリジナルというわけではないようですが、まあこれだけ素晴しい演出なのでそれも全く気になりません。
ちなみに、午前中引き締まらなかった体調は、幕が開いた途端に引き締まって、完全臨戦態勢に入ってしまいました。つかれなど吹っ飛びました。
ともかく、予想以上に楽しめた(?)パフォーマンスでした。これでしばらくはもうプッチーニやヴェルディ、モーツァルトやロッシーニを聴いても、刺激が足らない感じがします。ここまでの刺激だったのですから……。
長文で本当に申し訳ないです。言葉で語るには語りきれない世界だった、というのは確かです。一生に一度見られるか見られないかのオペラだと思いますが、見られた幸運に感謝です。やっぱりオペラはすごいです。
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