European Literature

Podのない生活一日目。今日は、ショルティの「マイスタージンガー」をCDウォークマンで聴いております。なんだか、6年前に戻った感じ。iPodを買ってからもう6年ですか。160GBないと私は生きていけないです。この閉塞感、不自由感はいったい、という感じです。時間の遡行が難しい世の中です。

さて、ディック・フランシス「本命」を読みました。お恥ずかしいことに、ディック・フランシスものは読むのが始めて。これも高校生の頃に読んでおきたかったです。

主人公アラン・ヨークはローデシア生まれの実業家の跡取りだが、アマチュアで競馬レースに出場する騎手でもある。ある日、アドミラルという英国一とも言われるサラブレッドに乗った朋友のビル・デヴィッドソンが障害物で落馬し命を落とす。アランはそのとき障害物上に張られた針金に気づく。これは事故ではない、と確信したアランは調査を開始するのだが、レースの行く末を操作する八百長が行われているのがわかる。どうやら、ビルは八百長(本の中では「押さえる」という言葉)を断ったため、落馬させれらたのだった。アランも警告と称する暴力沙汰に巻き込まれ身の危険を感じる。馬主の一人で美しい令嬢のケイトとの出会いが、事態を思わぬ方向へ導いていく。

犯人探しは、簡単でしたが、描かれた物量の充実度がすばらしいです。フランシスは実際にレースにも出場したアマチュア騎手ということもあって、レースや騎手の控え室の描写がすばらしいです。ウィキでは「本命」が最初の作とありますが、本にはシリーズ第三弾と書いてありました。どうやら訳出の順番が違うようです。

European Literature

えらく忙しいです。仕事がないより全然良いのですが。昔ならいくら仕事しても平気だった頃もありますが、歳をとって日和ってきたようです。武士道精神を忘れずに(?)。

エリック・アンブラー「武器の道」を読みました。

武器の密輸事件に巻き込まれたアメリカ人夫婦が主人公といっても良いでしょう。発端は有能なインド出身の若者が、自分の夢を実現させるためのはかりごと。華僑の大物商人一家が介在し、アメリカ人グレッグが冒険心をくすぐられて、武器の密輸の代理人になってしまいます。舞台は1950年代末期と思われ、まだまだ不安定な東南アジアで、グレッグとドロシアの夫婦は現地の内紛に巻き込まれてしまい……。

前回読んだ「ディミトリオスの棺」は、主人公は推理小説家でしたが、今回はアメリカ人夫婦です。アンブラーの主人公は、本職の探偵や諜報員ではなく、素人が巻き込まれてしまうパターンが多いそうです。

外国にも良い作家さんがたくさんいます。本当にありがたくわくわくする体験です。

European Literature

アガサ・クリスティの「葬儀を終えて」を読みました。ポワロの活躍する推理ものです。

ところが少し違和感が。「戦争」について登場人物が言及する箇所が何箇所かありました。私はそれを第一次大戦のことだと考えていたのですが、「ヒトラー」の記述があって驚きました。ポワロは戦後活躍していたのですか!

  私は、テレビドラマの影響で、ポワロの舞台はすべて戦前の30年代の話だと思っていました。無知の知。ひざまずかざるを得ません。ウィキによれば、テレビドラマはあえて時代設定を30年代にしているのだそうです。私はあのデヴィッド・スーシェのポワロが大好きでして、おそらくそういう方はたくさんいらっしゃると思います。

ドラマのかもし出す戦前イギリスの機器と矛盾をはらんだ美的世界はすばらしいです。アール・ヌーヴォー的な建物やら内装、調度品が淡い郷愁をも抱かせるのです。 それからテーマ曲も素晴らしい。おそらくはラバーのマウスピースをつけたアルトサックスの奏でる優美にしてミステリアスなフレーズ。何度かまねをしたことがありますが、メタルのマウスピースでは雰囲気が出ませんでした。

さて、「葬儀を終えて」ですが、病死したリチャード・アバネシーの遺産相続を巡る謎。末の妹コーラが不用意に漏らした言葉。「だって、リチャードは殺されたんでしょ」。そのコーラも薪割りで惨殺されてしまう。顧問弁護士はポワロに事件の謎解きを依頼する。ポワロの灰色の脳細胞が導き出した驚きの真相とはいかに。

私は、リチャードの遺産相続者全員が犯人かと思ったのですが、それではあまりにオ○エン○急○殺人事件的ですので、いったんその説を外しました。その後、結構良いところまでポワロに迫ることができましたが、最後の詰めで、ポワロに負けました。いい線まで推理できたのですが……。

帰り道は、クリスティ的雰囲気を求めて、ヴォーン=ウィリアムズを聴きました。

European Literature

 一日で読んでしまいました「ジャッカルの日」。ページを繰る手が止まらず、所用で電車に乗っている時間中どっぷりと暗殺者と警察の攻防の世界に身を浸しておりました。

冒頭部ではOASの幹部が、ド・ゴール暗殺を策謀し、暗殺者に依頼するあたりから始まるのですが、暗殺ジャッカルが着々と準備を進めるあたりは、なんとなく惰性のようなものを感じていましたが、中盤以降、フランス司法警察のルベル警視が登場して、両者の対決の様相を帯びた途端に電流が走り初めて、一気にストーリーが躍動し始めました。激しい駆け引き、奸智にたけたジャッカルは、あの手この手で警察を翻弄しますが、ルベル警視の粘り強さと、国家の組織力がじわりとジャッカルを追い詰めます。

史実では、ド・ゴールは、無事に暗殺をやり通し、大統領の職を勤め上げるわけですが、ジャッカルの計画はどのような顛末を迎えるのか。そしてジャッカルとはいったい何者であったのか。

しかし、これも高校時代に読んでおくべき本だったかもしれないです。映画も有名です。昔会社の同期が飲み会に現れて「ジャッカルと呼んでくれ」というセリフを吐いて、大受けしたのですが、引用元はこの映画だったそうです。昔、映画をビデオに撮った記憶があるのですが、見つかりません。映画もきっと面白いと思います。

それにしても、アルジェリア戦争直後のフランスは予想以上に脆弱だったのですね。ド・ゴールの強力なリーダシップがあったからこそ第五共和制が成立したわけですが、逆に言えば、ド・ゴールがいなくなれば、カードの館のようにはかなく崩れ去る危険性もあったわけです。だからこそ、秘密軍事組織であるOASが跋扈したわけですし、国家権力側もOASと激しく追い詰めた訳です。

先日読んだ、スタンリー・エリンの「カードの館」でも、やはりOASがモティーフになっていました。アルジェリア戦争のことは、辻邦生氏の「洪水の終わり」でも少し触れられていました。フランス人の学生が徴兵でアルジェリアに向かわなければならない、といった文脈だったと思います。60年代のフランスは興味深い時代です。第二次大戦後のヨーロッパ史は、冷戦という東西対決の構図とともに、フランスにおけるOASの問題や、イギリスにおけるIRAの問題、あるいはフランコ政権下のスペインにおける対立など、他にも実に興味深いテーマが山ほどあります。まだまだ学ばねばならないことはたくさんです。そう簡単にくたばるわけにはいきません。

European Literature

エリック・アンブラー「ディミトリオスの棺」読了。

戦間期(第一次大戦と第二次大戦の間です)のヨーロッパを舞台にした、スパイ小説的要素を持つミステリー。ディミトリオスという国際犯罪者の遺骸に対面した探偵小説作家ラティマーが、「好奇心」からディミトリオスの過去を探ろうとギリシア、ブルガリア、スイス、パリと旅をする。ディミトリオスの過去を知るもの、知らぬもの。思いがけない当事者と出会い、ディミトリオスの最大の謎に迫るラティマー。結末は如何や?

映画化もされているようですね。「仮面の男(1944)」がそれ。登場人物の名前は少し変わっているようです

。 第二次大戦前というまだ19世紀の芳香が漂っている時代の物語でしてモノクロ映画を見ている気分。プロット的には想像の範囲を超えなかったのですが、出版されたのが1939年ですので、当時は斬新だったと思います。ですので、作品の質が悪いということは全くなく、むしろその逆です。

それにしても、現代にプロットの面白さを追及するのは本当に骨の折れることですが、それを実現しておられる方もいらっしゃいますので、すごいことだと思います。

引き続きハインラインの「宇宙の戦士」を読んでいますが、これは若いうちに読んでおくべきでしたね。後悔。 最近「物語の面白さ」を追い求めている感じ。とある本に書いてある「読むべき本」というリストを元に渉猟していますが、手遅れ感もあるなあ。ネット・サーフィンやらなんやらの時間を減らして、あとどれだけストーリーの世界に浸れるか。これはある種生き方の選択の様相を帯びてきました。

European Literature

今朝は変な夢を。サクソフォーンをクリーニングして(管の中はかなり汚れていた)、新しいマウスピースを付けて吹いてみると、いままでのやわらかい音から、エッジのきつい金属的な音に変わってしまい、うーん、とうなっている夢。
 
夢で言うと、よく見る怖い夢が、シュトラウスのオペラに今すぐ出演して歌え、といわれる夢。もちろん歌詞も旋律もまったくわからない状態で、ポンと舞台に出されて、ああ、どうしよう! と思っているうちに、目が覚めるというもの。
 
夢判断的にはどうなんでしょう?
 

昨日から、気分転換に読んだ、イアン・ピアーズ氏の「ラファエロ真贋事件」。面白かったです。少々情報が整理されていないところはあったにせ よ、未知のラファエロの作品が明らかになるという刺激的な内容に、一気に引き込まれてしまいました。ローマの小さな教区教会に掲げられている絵に、ラファ エロの絵が塗りこまれているという設定。ラファエロの絵なんて、もう絶対に売りに出ないですから、これがもし本当なら大騒ぎになるわけです。案の定、絵は オークションにかけられるわけですが、落札したのは……、という感じです。

この手のミステリーに良くあるように、二重三重に出来事がひっくり返っていくのが痛快で一気に読み終わってしまいました。もし人生をやり直せるのなら、美術史家になりたかったなあ、という夢を、またもや見てしまうのでした。

Classical,European Literature

前にも書いたかもしれないが、音楽を、言葉や文章に表すことの難しさといったら、本当にこの上ないものだ。

もちろん同じことが、絵画や彫刻にも当てはまるだろうし、長編小説に対する感想であってもそうだろうし、風景や人間を描写しようとしたときにも同じような思いを抱くのである。とにかくきわめて困難な仕事のひとつであることは確かだ。

かつて取り上げたように、ホフマンスタールはこう述べる。

ある話題をじっくり話すことが、そしてそのさい、だれもがいつもためらうことなくすらすらと口にする言葉を使うことが、しだいにできなくなりました。(中略)ある判断を表明するためにはいずれ口にせざるをえない抽象的な言葉が、腐れ茸のように口の中で崩れてしまうせいでした。

ホフマンスタール『チャンドス卿の手紙』檜山哲彦訳 岩波文庫 1991、109ページ

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非凡なホフマンスタールさえこう述べているわけで、ましてや僕にはもっと難しいとおもうし、ホフマンスタールがこの文章を述べている地平にさえもたどり着いていないのかもしれない、と思うのだ。

冒頭に書いた「音楽」を「文章」化すること。それも、音楽用語を使わずに行うこと。四度跳躍とか、リタルダントとか。それでいて読み手にある感じを頂いてもらうということ。厳しいがそうせねばならぬ。

European Literature

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ウォーターシップ・ダウンのウサギたち〈下〉
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ウォーターシップダウンのうさぎたち コレクターズ・エディション
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「ウォーターシップ・ダウンのウサギたち」を読みました。

  • 小学生時代に読んでおきたかったなあ、と真っ先に思う。残念。
  • 各章の冒頭に記される引用が的確で味わい深い。
  • 作者は否定しているようだが、現実世界のメタファーに富んだ作品に読むことができる。ヘイズルの泰然とした振舞、ピグウィグの勇気と剛気、ウードワードの権力欲など。人間世界の縮図を見ているようで、面白い。ヘイズルのような優れたリーダの元で働いてみたいものだ。ないしは、ヘイズルのようなリーダーになりたいものだ。
  • 細緻な描写や説明もすぐれていて、矛盾点は見つからない。「細部に神は宿る」という言葉がぴったり当てはまる。
  • 冒頭部から物語はどんどん展開していく。章立てはそれぞれ短く、テーマが細分化されている。だらだらとストーリーが展開していくのではなく、リズムをもってきびきびと展開していくのでとても読みやすい。
  • それにしても、ウサギの視点で、舗装された道路、自動車、鉄道、橋、舟などを描写するのは骨が折れるだろうな、と思う。そして、どれもきちんと描写されていて舌を巻く。
  • 物語はこれぐらい面白くないといけないし、完成度が高くないといけないな、と思う。
  • DVDも出ている。機会があったら是非見てみたい。
  • この本は、本当に読んで良かった。