マイケル・ブレッカーの初ソロアルバムです。パット・メセニー、ケニー・カークランド、チャーリー・ヘイデン、ジャック・ディジョネットなど有名どころが参加。聴けば聴くほど往事のマイケル・ブレッカーを思い出します。
何曲かピックアップ。
Nothing Personal
この曲、マイナーブルースなんですが、テーマがMike Sternが作りそうな変人系フレーズ。作曲はDon Grolnickです。彼も亡くなっちゃったなあ……。たしか哲学学んでたんですよね、Grolnickは。メセニーのソロも聴けます。ベースの音いいなあ、と思ったらCharlie Hadenでした。この曲も大学時代にバンドでやってみました。バンド名はPart and Arbeitでした。
Original Rays
イントロEWIのソロが面白いです。ライブだとアルバムの10倍は長いソロを取っています。EWIでああいう世界を作り出すことが出来るのはマイケル・ブレッカーだけです。伊東たけし氏とはベクトルが違います。もう聴けないのか、と思うと、寂しいですね。テーマのフレーズは希望とか勇気とかそういう気分を与えてくれる秀絶なフレーズです。メセニーも参加。
My One And Only Love
最初の低音の破裂音の迫力がものすごい。テナーでこの長さのイントロをテンション保って吹ききるのは、本当に凄いと思います。のちにアルバム"Two Block from the Edge"で、Skylarkを吹いてますが、このMy One And Only Loveからの派生系だと思っています。はずかしながら、この曲も昔バンドで取り上げてもらったなあ……。
全編にわたってストリングスが導入されていて、柔らかい感じに仕上がっています。気になる曲を何曲かピックアップ。
3 No Lonely Nights
静かな曲です。憂愁なテーマをマイケルが歌い上げています。フラジオ音域が素晴らしいです。
5 Prism
キース・ジャレットの手による作品。ヘイデンがキースに相談して、この曲を取り上げることにしたのだそうです。難しいコード進行も何のそのと言った具合に悲哀あるインプロヴァイズを聴かせてくれます。
9 Bittersweet
この曲も甘い曲。ブレッカーはこういうのを吹いても一級品です。ラフな感じのピッチコントロールが哀愁を誘います。
10 Young And Foolish
ビル・エバンスの演奏で有名。冒頭のヘイデンのベースソロのテーマが大好きで、バンドでもやってもらったことがあります。しっとりとした演奏。ブレッカーのテナーも穏やかに寄り添う感じなのです。最後のサブトーンの音の厚みが素晴らしいです。マイケルの息づかいが聞こえてきます。
11 Bird Food
リズムがトリッキーなストレートアヘッドな曲です。
13 Love Like Ours
綺麗な曲です。マイケルのテーマがうたっています。こういうバラードでもちゃんと聴かせるのが凄いのです。ただのテクニカルなテナー奏者ではないわけです。といっても、マイケルほどテクニカルなテナー奏者が別にいるのか、と言われると答えに窮するのですが。というか、最近では、マイケルの真骨頂は、こうしたバラードで歌い上げる部分に多くあるのではないか、と思うのです。
14 Some Other Time (Bonus Track)
この曲もバラード。ここでもマイケルの穏やかなインプロヴァイズ。決して十六分音符を激しく繰り出したりはしません。歌っています。
もう一度チャールズ・ラムの I am in love whith this green earth. (わたしは緑の大地が大好きなのです)に戻ってくる。この生命への執着、礼賛こそが、この生命の「よろこび」こそが芸術の本源に他ならない(中略)しかも
この「生のよろこび」はただ死を媒介としてのみ、永遠のものとなり、あらゆる面において輝きだす。(中略)死が永遠ではなく、この「生のよろこび」が死があるおかげで、永遠の輝く甘美さにつらぬかれるのだ。時のうつり、死、病気がなかったら、この「生のよろこび」は亡くなるだろうし、日々は砂を口口噛むような繰りかえしにすぎなくなる。
マイケル・ブレッカー二作目のソロアルバムであるDon’t try this at homeを聴きました。印象的なカバージャケットでは、マイケル・ブレッカーがテナーサックスを人差し指だけで支えています。それは、マイケルがテナーサックスのテクニックを完全に掌中に収めたことを雄弁に物語っています。
1曲目Itsbynne ReelがEWIのトリッキーな音色で始まったり、5曲目のDon’t Try This At Homeで、テナーとEWIのユニゾンが聴かれたりするなど、先進的なアプローチも見られますが、概して内省的な色合いを基調としているといえるでしょう。大好きなアルバムの一つです。
2曲目のChime Thisのインプロヴァイズはマイケルらしいフレーズに満ちています。4曲目のSusponeは循環形式の曲。マイケルのアウト気味の循環アプローチを聴くことが出来ます。6曲目のEverything Happens When You’re goneは静かに心に残る曲。内省的なテナーサックスの独奏イントロ部から叙情的なメインテーマへ。低音域から高音域にかけてのまるで星がちりばめられたようなテナーサックスの音。マイケル・ブレッカーが彼岸へ旅立ってから全てが始まるとでもいうのでしょうか。それはあまりに悲しくやるせないではないですか……。物語性をおびた7曲目のTalking to Myselfも必聴です。