《ドン・カルロ》におけるカトリック──新国立劇場《ドン・カルロ》その4

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引き続き、先日の新国立劇場《ドン・カルロ》について。今から思っても本当に興味深いドラマでした。

登場人物の一人、宗教裁判長。彼は、王に意見することができるほどの権力の持ち主です。

王と聖職者の関係は、ドイツ国防軍やソ連における指揮官と政治将校、かつての日本における校長と配属将校の関係に似てます。指揮権とは別系統の指揮権が存在するという状況ですから。

フーコーの概念に司牧者権力というものがあります。他者の幸福を目的とするかのように振舞いますが、実際には教会の支配の原理を維持することが目的である、というものです。観ながらそのことばかり思い出していました。妻屋さん演ずる宗教裁判長はまさにそのように見えるもの。年老いて、杖を付きながらも、磔刑像を権力の象徴のように持ち歩いていました。

これは、確かにカトリックへのある種の抵抗のようなものがあるのかもしれません。19世紀以降の市民革命の時代に会って、旧態依然としたカトリシズムへの反抗のようなものは少なからなずあったでしょうから。

それに加えて、この《ドン・カルロ》が作曲された時代というものを考える必要があります。

これには、イタリア王国とローマ教皇の対立が背景にあるのもあるでしょう。作曲されたのは1865年から1866年にかけて、とされています。ちょうど、イタリア統一運動の中に会って、ローマの領有をめぐって、教皇とイタリア王が鍔迫り合いをしていた頃です。1864年12月8日(まさに今日ですね)には誤謬表というものが教皇によって発布されました。これは自由主義は誤っているという詔勅だったわけで、批判や議論が巻き起こったようです。

こうした、イタリアにおける王国と教皇の対立も、この《ドン・カルロ》のドラマになにかしらの影響を与えていると考えるとなにか首肯できるものがあります。

がゆえに、《ドン・カルロ》の初演で、ナポレオン三世の后であるウジェニー皇后は席を立ったのかもしれません。wikiにはウジェニーはカトリックだったので、ということになっていますが、私の勝手な想像では、教皇領をめぐってフランスとイタリアは対立状況にあったので、そういうことも背景にあったのではないかと思っています。教皇領を守っていたのはフランス軍でしたし。

もちろん、この手の、ヴェルディと政治運動の関連性に安易に飛びつくことの危険性も指摘しておきたいとおもいます。あの、Verdi = ヴィットリオ・エマヌエーレ万歳!という都市伝説のような胡散臭さというものは常につきまといますから。その辺りは以下のリンク先の記事をどうぞ。

https://museum.projectmnh.com/2013/05/18235903.php
https://museum.projectmnh.com/2013/05/19105240.php

というわけで、取り急ぎグーテナハト。

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《ドン・カルロ》におけるカトリック──新国立劇場《ドン・カルロ》その4” への3件のコメント

  1. 深夜恐れいります。司牧者概念、ですか…。

    一昨日の夜遅く、繁華街に繰り出そうとモノレールに乗りまして。千葉市の美術館の広告、ミレー「草を食む羊たち」だったかをしみじみ眺めてモノレールを待っていましたが。十分くらいして、幽霊の様に描かれた、まさに司牧者を絵の中に発見したんですよ!恐らく、哲学者たちは眠っている時間だと思われます。

    こんなもの眺めさせられて、毎朝満員電車乗らされた日にゃ…それじゃ、グーテンナハト。

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    • 健也さんコメントありがとうございます。

      https://www.chiba-muse.or.jp/ART/artco/humb23.htm

      こちらですね。確かに後ろにいますね。影に隠れた羊飼い。羊飼いはもちろん聖職のメタファ。
      ミレーは敬虔なカトリックということになっていますが、なにか意図があるようにも見えてきます。われわれは無邪気に草を食む羊。ですが、アウトサイダーもちゃんと書かれてますね。

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      • うげっ…それは分からなかった(汗)。さすが。すごい。
        また追っかけられてる気分になりました。

        >もちろん、この手の、ヴェルディと政治運動の関連性に安易に飛びつくことの危険性も指摘しておきたいとおもいます。

        コンセプチュアル・アートの持つ危険性、ですね。両刃の刃…私も羊の側に立つ方法を研究中です。幼少期の記憶をかっぽじりながら。

        また含蓄あるお話を伺いに訪問しますね。

        ご返答、ありがとうございます。

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