パラティナ美術館の上階は近代美術館になっている。ルネサンス期の絵画を見た後に、近代美術館の比較的新しい絵画群を見ると不思議な気分になる。すでに絵画のイニシアティブはフィレンツェにはない。フランスへ移っているのだろう。そういうわけで、いわゆるよく知られた画家の作品は少ない。それに、体調もあまり良くなかった。午前中、たっぷり時間をかけてウフィツィ美術館を歩き回り、昼食後はパラティーナ美術館を堪能したわけで、さすがに疲れもピークを迎えている。美術館に行くと言うことは、すなわち体力勝負をする、ということと同義である。そう言う意味では近代美術館には申し訳ないことをしてしまった。あまり絵が目に入ってこない状態で室内をまわることになってしまったのである。疲れた身体に鞭を打ってまわっても余りよいことはない。今日に限って言えばオーバーワークだったと言うことなのだ。
ところが、展示の最後に強烈な印象を持った絵に出会うのである。プリニオ・ノメルリーニ(Plinio Nomellini)というリヴォルノ生まれの画家で、1866年に生まれ1943年になくなっている。ネットで検索していたところ、プッチーニと知り合いだったという。この画家のIl primo compleanoという絵に衝撃を受けたのだ。点描画風の絵で、窓から暗い室内に光が差し込んでいるだが、日なたの部分はもちろん日陰の暗い部分にも赤、青、緑といった原色系の点が粒状にちりばめられているのだ。暗い影だというのに、明るい色彩感を持っているのである。窓からの光が部屋全体に輝き拡散して居るのが分かるのである。光の魔術というのはこういうことを言うのかもしれない。画面には母親と四人の子供。一番小さな子は母親に抱かれている。暗い部屋なのだが、皆が幸せそうな顔をしている。
ノメリーニの別の絵もやはり凄い。「正午」という題名の絵なのだが、明るい日差しの差し込む森にテーブルを運び込んで家族が昼食を撮っている風景が、点描にも似た儚い筆致で描かれている。黄金色の日差しが画面に一杯に拡がっていて、食事の幸福感が強い力で迫ってくる。画面を縦に分割する木の幹が描かれていて、それが画面の構図を堅牢強固なものにしている。画面から迸る色の流れにのまれて、甘美に惑溺される思い。
画集などを検索してみたのだが、日本、米国、英国のAmazonでは取り扱っていないようだ。日本語の文献もない。イタリア語版のWikipedeiaには項目があるものの、すぐには読み下せない。悲しい思い。継続調査が必要だ。