永井路子「炎環」を読み終わりました。梶原景時、全成禅師、北条義時、北条時政たちが主人公。短編がいくつか集まって、源平合戦から鎌倉幕府草創期の混乱を描いた作品でした。小さいころは、やはり源平合戦にしか目が向きませんでしたが、実はそうした有名な史実を埋めるさまざまな人間の動きこそが面白いと感じるようになりました。
あとは、源実朝の出自が興味深い。父親は頼朝で、母親は北条政子。ですが、育ての親は頼朝の弟である全成禅師だということ。全成禅師は、都で仏門に入っており、教養深い人物でもあったようです。全成禅師の影響下にそだった実朝は、風雅な人物として描かれています。
実は、辻邦生の幻の作品に「浮船」というものがありました。構想だけに終わったようですが、「西行花伝」の続編的位置づけとして、実元を主人公として考えられていた作品だったとか。武家でありながら、芸術に打ち込むという人物が辻邦生の関心を引いたのはすごく首肯できます。きっと、西行やロレンツォ・メディチと重ね合わせていたのだと思います。そして、美に打ち込みながらも悲劇的な最期を遂げる実朝は、いわゆる「美と滅びの感覚」と称される辻文学の主人公としてあまりにふさわしいと思うのでした。
永井路子「炎環」
驚きの時速1130キロ
広島旅行のこと、時系列に書こうとおもいましたが、このエピソード、いつ書けるか分からないので、そうそうに書くことにします。
広島空港の滑走路端
広島旅行最終日、広島駅から山陽本線で西条へ。呉に住む我が友人が薦めてくれたので、酒蔵を回ることにしたのです。西条では、試飲したり、吟醸酒をかけたシフォンケーキを食べたり、楽しい時間を過ごしました。
西条から広島空港へは、山陽本線を白市まで行って、そこからバスで向かうのですが、そのバスからすごい風景を見てしまいました。広島空港の滑走路10、つまり東向きの滑走路ですが、滑走路誘導灯がものすごいことになっていました。えらい構造物。霧の多い広島空港は、高度な着陸誘導施設がありますが、滑走路への誘導灯も規定により手厚くなっています。まるで宇宙基地みたいでした。
ハイジャック? 驚くべき航跡
僕らの便は、30分遅れで離陸。ボーイング777は、いったん西に向かって離陸した後に、大きく左へ旋回して東京へ向かいます。GPS受信機を持っていたので、刻々とかわる機体の位置を楽しんでいました。機体は津山上空から姫路の北部を通過し、右手に神戸、大阪の夜景を見やりながら近畿地方を通過して、中部国際空港上空近辺を通過しました。
ここで、機体は右に旋回し知多半島の上空を南進始めました。航路的には、まっすぐ東京へ向かうはずなのですが、南側の太平洋上を走る航路に転移するのかなあ、と思っていたら、右旋回を続け、GPS受信機の進行方向を示す磁方位は180度(南)を超えて、270度(西)を示してしまったのです。つまり、東京に背を向けてしまったということ。これ、ありえない。何らかの緊急事態が発生したのでは、と色めきました。機体の不具合か、あるいはハイジャックとか。
機体は、知多半島から西進して伊勢湾を横断し三重県へとさしかかりました。対地速度は260ノットほど。時速388キロ。三重県上空で、再び右旋回を開始。徐々に機体は北から東へと向いて、もう一度知多半島上空で進路を東へ定めました。大きく旋回して、わざわざ時間をかけたような形です。
ここからがすごかったんです。ボーイング777の二つの強力なエンジンが轟音を上げはじめたんです。機体の速度はぐんぐんあがり、対地速度でいうと610ノットに達してしまいました。610ノットって、時速1130キロほど。これは驚異的なスピードです。音速はだいたい時速1190キロぐらいと言われていますから、これはもうすごい速度。
実際には、音速は、温度と空気密度により変化します。高度が上がれば、気温は下がるため、音速は遅くなり、空気密度も低くなるため、さらに遅くなるはず。当時の飛行環境は、高度38000フィートで、気温はマイナス53度です。空気密度を考慮しない場合の音速は時速1077キロですので、もう少しマッハは下がっているはず。いずれにしても、マッハ1に肉薄する速度だったはず。
ボーイング777のエンジンは推力40910kg×2基の、ハイパワーエンジンで、エンジンの直径は3メートルちかくあり、DC-9やMD-90といった、旧ダグラス社の細身の旅客機の胴体断面と同じぐらいの大きさです。それがうなりを上げているんですから。
CAの方に聞いてみたら、彼女も大回りしたことは承知していて、なおかつ着陸滑走路が22であることも教えてくれました。遅れている理由は羽田空港の混雑のため。この日、つまり11月12日は、横浜のAPEC開催前日で、VIPたちが、ゾクゾクと羽田に降り立っていたのですね。ですので、フライトが遅れたり、時間調整のため大回りさせられたりしていたと言うことでした。私の予備知識では、着陸待ちは、空港近くのホールディングポイントで行うもの、だったのですが、まさか羽田から遠く離れた伊勢湾上空でぐるりと一回りするとは、いやはや。
そして翼は見た。
機体は、房総半島沖で左旋回し、房総半島を北上しました。船橋あたりまで飛んだところで、左に旋回して、羽田のB滑走路、ランウェイ22に着陸。
着陸後、新しい国際線ターミナルを横目に、タキシングを続けたんですが、第二ターミナルの南側で飛行機は停止してしまいました。よほど混んでるんだなあ、と思っていたら、機長からのアナウンスが。。
「えー、現在、セキュリティの都合上、停止を命ぜられております。前方右側から、エアフォースワン、おそらくはオバマ大統領が乗っていると思われる機体を待っております」
まじですか! エアフォース・ワンだなんて、映画の世界だと思っていたんですが、半径200メートル以内で遭遇するとは! ちょうど右舷窓側に座っていたので、カメラを構えていると、来ましたよ、エアフォースワン。残念ながら尾翼しか見えなかったけれど、証拠写真を撮りました。たぶんD滑走路を降りてきたんだろうなあ。
っつうか、あまりにレアな体験ばかりのフライトに、一人で盛り上がっていたので、カミさんの白い目が怖かった。。。
11月の本
11月は、旅行に行ったのもあって、更新日が少なすぎる。だが、本は何とか読みました。軽い読書が主ですが。しかし、永井路子を読んだのは大正解でした。やはり大好きです。今月もひたすらいろいろ読みます。
永井路子「乱紋」
永井路子「乱紋」完了。永井作品はやっぱりすばらしかった。
主人公は浅井三姉妹の末っ子であるおごう。おごうは、徳川秀忠の正室となり、徳川家光の生母となるけれど、そこにいたるまでの波乱とも言える半生を描いた作品。織豊政権から江戸幕府へいたる過渡期の様子は、小さいころから何度となく読んでいましたが、おごうの傍から見る視点というのはとても新鮮でした。
来年のNHK大河ドラマは、このおごうが主人公ですので、タイミング的にもよかったです。
それにしても、永井路子って素晴らしいなあ。この方の小説は、いわゆる客観的語り手がかなり全面に出てくるんですが、全然うざくないのです。自然に史的解説が述べられれて、ストーリーを阻害することがありません。解説付きでオペラを見ている気分です。
あとは、視点が独特。女性ならではというのもあるはず。多くの歴史は男性的視点で述べられますので。