Richard Wagner

昨晩、ふと思い出したこと。

先日の新国「トリスタンとイゾルデ」第二幕で幻覚を見た記憶のことで、これってほとんど、幽霊やUFOと同じぐらい信憑性はないのですが、内面のイマージュとしてはすごく具体的で、とても驚いたのです。光り輝く絢爛な円筒形の物体が一瞬心の中に浮かんだのですが、そのときの清澄感はこれまで音楽を聴いて感動したときのなかで最も強かったと思います。これは言語化するのはきわめて難しい。

なんだか、そのときだけ、美的な何かがすべてを超えているような直観が浮かんできて驚きました。

これって、辻邦生が述べるところの原初体験のようなものではないか、と考えています。辻邦生の原初的体験としては1)パルテノン体験、2)ポン・デ・ザール体験、3)リルケ体験の三つですが、そういった原初体験だったにちがいないのです。今回の私の「トリスタン体験」は辻邦生の「パルテノン体験」と似ているかもしれない。辻邦生曰く「美が世界を支えている」という直観。そこまで大仰なことをいえるほどではありませんが。

ここ数年、音楽を聴いて涙を流すようになって、それはどうやら歳のせいだとばかり思っていましたが、それだけではないようです。

私もこれまで、いろいろな場面で決定的な体験をしましたが、今回の「トリスタン経験」は、どうもそれに類するものになるやもしれません。