前回に続き10月26日《フィガロの結婚》のことを。
シルマーの素晴らしさと、九嶋さん、マンディ・フレドリヒの素晴らしさは前申し上げたとおり。でも思いこすほどのにマンディ・フレドリヒの熟成感は凄いと思う。昨年デビューとは思えないです。今後恐ろしいことになりそうな予感。
さて、今日はまずは男声陣から。
フィガロを歌ったマルコ・ヴィンコ。大柄な体格を活かした演技は素晴らしく、この雰囲気はやっぱりあちらの方は素晴らしい、と思います。そして歌も素晴らしい。たしかにすこし豊かさに書けるかもしれないけれど、全くはずさない巧さがありました。
アルマヴィーヴァ伯爵を歌ったのはレヴェンテ・モルナールでした。歌詞を文脈の中で捉えてきちんと咀嚼し表情をつけていて、今回のパフォーマンスの雰囲気作りの中心を担っていたと思います。歌も最高。声もバッチリ豊かな感じです。この方が今回のパフォーマンスを引っ張っていたのだろうな、と思います。
ケルビーノのレナ・ベルキナ。前半はすこしセーブ気味だったですが、後半にむけてどんどんカッコよくなっていきました。いや、ホントうまい。
素晴らしかったのはバルトロの松位さんです。松位さんは最近何度も新国立劇場に登場しています。《魔笛》、《オテロ》、《さまよえるオランダ人》などなど。いつも思うのですが、この深みのある声はどこから出てくるのだろう、と思います。ヨーロッパで鍛えられた声なのでしょうか。どっしりと落ち着いた演技でした。
関係ないんですが、フィガロの出生の秘密が明かされたところで、カツラを取りましたが、スキンヘッドになっていました。そしたら、なぜか故市川團十郎に似ておられることに気づいてしまいました。
それから、マルチェッリーナの竹本さん。竹本さんのようなメゾ・ソプラノがいらっしゃると舞台が引き締まります。竹本さんは、たしか《アラヴェラ》に出ておられたはず。
新国の《フィガロの結婚》では、バルバリーナを歌うのは素晴らしい人であることが多い気がします。今回は吉原圭子さん。巧いですよ。深みのあるソプラノです。
本当に楽しく素晴らしい演奏でした。最後は、シルマーがタクトを下ろす前から拍手が始まりましたからね。普通はタクトを落とすまで拍手するのはご法度なんですが、この素晴らしさと楽しさなので、全然納得です。私もつられて拍手しました。
でも、意外なことにカーテンコールは一回だけ。みんなそそくさと席を立っていきました。こんなに素晴らしかったのになぜ?
帰ってカミさんと話しをしたのですが、多分地震のせいではないか、と。土曜日の未明に東北で少し大きめの地震がありました。東京でも震度3を記録しています。年配の方々にとっては、地震で帰宅できなくなるのではないか、というのが結構ストレスになっているらしいと聴いたことがあります。私の母もやっぱりそうで、二年前の地震以降はなかなか都心に出るのが億劫になったと言っていましたし。
私はずーっと拍手していたかったんですが、まあ仕方がないです。
ともかく、今回の公演では、ウルフ・シルマーの素晴らしさを再認識しました。そして、新国立劇場のレベルの高さも。プレミエが2003年ですから、ちょうど10年前でしょうか。あのころに比べてどんどん素晴らしくなっていきます。
次の演目は《ホフマン物語》です。たしかこれもプレミエは2003年だったはず。カーテンコールにフィリップ・アルローが登場して場内がどよめいたのを記憶しています。次も変わらずたのしみ。
では、こんどこそ本当にグーテナハト。
素晴らしい日本勢──新国立劇場「フィガロの結婚」その2