Book

ヨーロッパの都がひとつ、またひとつと地上に花開く様子を眺めた。

(118ページ)

もともと、航空機が好きでした。全日空(当時)ボーイング727に幼いころ乗ったのが原体験なんだと思います。その後も旅行の楽しみの一つは、訪れる先での体験ということもありましたが、なによりもフライトを楽しむことも目的の一つになっていました。しばらく前には、フライトシミュレータをPCに入れて、仮想の空を飛んでパイロットのことを想像したりもしていました。最近は、旅行に行くこともなくなり、もう5年近く飛行機に乗っていません。いつになったら乗れるのか。

先日、ふらりと書店に立ち寄ったのですが。ハヤカワ文庫のNFが平積みになっていて、ふと気になったのがこのヴァンホーナッカー氏の「グッド・フライト、グッド・ナイト」でした。

パイロットの書いたほんと言えば、私が思いつくのは内田幹樹さんの作品群で、数年前にずいぶん熱心に読み込んだものです。内田さんの小説もエッセイも、航空機運航の裏側がよくわかる優れた作品でした。この本も違わず面白そうだな、と思い、パラパラと本をめくると、なんだかずいぶん詩的な表現が多くて、めずらしく衝動買いをしてしまいました。

ヴァンホーナッカー氏、実にたくさんの文学作品を読んでいるようで、ワーズワース、ディーネセン、ミュッセ、ウォレス、マルセル・デュシャンといった文学者芸術家の言葉の引用が美しく、すべての描写が深みを帯びているのです。ここまで航空機と文化芸術が融合した作品を読むことが出来るのは本当に嬉しいです。

冒頭の引用は、イスタンブールからヨーロッパ上空をとんだ時の描写。ヨーロッパ大陸を進むに連れて眼下にいくつも広がる街の様子を花にたとえた美しい描写で、思わずため息がでました。確かに、昔、夜のドイツを空から見下ろしたとき、オレンジ色のナトリウムランプに照らされた街が、まるで大地の上を這うように煌々と輝いていて、そうした街が地平線に向かっていくつも見えていたのを思い出したのでした。

素晴らしい詩人は比喩表現がすぐれているもの。ヴァンホーナッカー氏もやはり詩人だなあ、と思いました。

今日も、空を飛ぶ旅客機を眺めながら、どこかへ飛んでいきたい、と思うことしばし、でした。

それではみなさま、おやすみなさい。グーテナハトです。