しばらく時を忘れた──早瀬耕「未必のマクベス」
なんだか、ひさびさに没頭できる小説を読みました。「未必のマクベス」。
昨年買っていたのですが、ようやく、この数日、読み続けて時を忘れました。先日書いたように、少しは小説も読まないと、と思って手に取りましたが、ずいぶんとたくさんのことを勉強しました。
企業小説、恋愛小説、あるいはスパイ小説的な側面もあり、間口が広い作品です。
時間構成がすばらしく、経時的に物語を展開させるのではなく、さまざまなエピソードが時間を反復しながら進んでいくのが見事でした。辻邦生作品でいうと「風越峠にて」という作品がありますが、あの作品もやはり、戦時中と現代を行ったり来たりしながら進みます。「未必のマクベス」も、そうした趣があり、物語進行に重層的な膨らみと豊かさを感じたなあ、と思います。
また、筆致が実にリアリティに富んでいて、こういう世界はきっとどこかにあるのだろうな、と思わせるものでした。もちろん誇張や想像も含まれてはいるのでしょうけれど、そうした違和感を感じて首をひねるようなことは全くありませんでした。ただただ、ページをめくる速度が、先を知りたくなり、読み進めるにつれて加速していくような、そういう作品でした。
題名にあるように、シェークスピアの「マクベス」をモチーフにしていることもあり、そのあらすじとストーリー転回を重ねてしまうところも、この作品の素晴らしさだと思いました。バップジャズは、使い回されたフレージングの組み合わせを楽しむような趣があります。定められたパターンの中で、予測したパターンと、実際の演奏を比べて、その差違を楽しむような、そうした感覚がありますが、この「未必のマクベス」においても、やはり「マクベス」と「未必のマクベス」の差違を知らず知らず探すということを読みながらしていたように想います。
全くレールのない作品よりも、ある程度のレールがあって、そこにどういう列車がどういう速度で走るのか、というのを予測する楽しさ、というような感覚があるのだなあ、ということと思います。
なんだか、ずいぶんとたくさんのことを書いてしまいました。主人公はいわゆる団塊ジュニア世代ではないでしょうか。おそらくは、現在40代の男性が読むとぴったりはまりそうです。
それではみなさま、おやすみなさい。グーテナハトです。
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