サンタ・クローチェ広場からヴェッキオ宮殿までぶらぶらと散歩しながら歩いていく。細い路地。石畳。両側の高い石造りの建物に圧倒されそうになる。しかし、人通りはとても多く、町中が観光スポット、いや、町中が美術館であるといわれても驚かない。それぐらい魅力的な待ちである。この路地をきっと、ボッティチェルリやラファエロが歩いたのかもしれない、と思うとぞくぞくしてくる。
ヴェッキオ宮殿前広場にでると、それまでの狭い路地から景色が急に広がる感じがする。尖塔を持つヴェッキオ宮殿の壁面にはいくつもの色とりどりの紋章が描かれている。写真を見ているだけではやはり何もわからない。実際に見るのが一番良いのだろうけれど、極東から欧州へ来る機会なんて今の僕の境遇では高が知れているから、本当に幸福な瞬間なのだ、と感謝せずにはいられない。
メルカート・ヌオヴォ、つまり新市場には、ブロンズの猪の彫刻が置いてある。これに触るとまたフィレンツェにこられるらしい。トレビの泉のようなものだ。だが、そういう非合理的なものこそ積極的に受け容れていくのが大事なのだ。科学や論理だけが事実ではない。戦闘的オプティミズムと辻先生はおっしゃるが、自分にとってプラスになるものは、どんなに非科学的なものであろうとも、楽しんで喜んで受け容れるべきだろう。もちろん、それによって人生を見誤るようなことはあってはならないのだけれど。