Italy2007


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ドゥカーレ宮殿を見終わって、ザッカリアの浮き桟橋へ戻って、大運河グランカナルを遡ってサン・トマへ向かう。グランカナルは、さしずめ街の大通りと言った感じで、ゴンドラはもちろんのこと、ヴァポレット、水上タクシー、宅配業者の輸送ボート、警察のボートなどが行き交っている。

ヴァポレットの後部座席に座ってのんびりとサン・トマへむかい、トラットリア・サン・トーマで昼食。広場にせり出した座席に座ると、太陽の光を浴びられて気持が良い。後ろには英国の奥様方が笑い声を立てて食事をしていて、前の方では若いカップルがミックスフライをつまんでいる。相方はラビオリを、私はイカスミのパスタを。興が乗って、ミックスフライとムール貝を頼んだら値が張ってしまい少ししょんぼり。昼食とはいえやはりヴェネツィアの物価は高い。観光地値段だなあ。でも美味しいので可。

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サントマの教会の入り口の前でイベリア半島系の黒い髪の男ギターを弾いているのがみえるのだが、食事を終えた若いカップルが帰り際にギターの男に紙幣を渡している。パフォーマーにお金を渡すことなんて、日本では滅多に見かけることもなかったが、若いカップルの優しさ、あるいは習慣に少し感激する。

腹ごなしに街を歩いていると、突然高い鐘楼を持ったフラーリ教会の前へと出てくる。ここにはティツィアーノの「被昇天の聖母」があるというので、少し高い入場料をはたいて入ってみる。正面祭壇に掲げられた絵に対面。昇天する聖母の躍動感が伝わってくる。美術館にある絵も素晴らしいが、教会に所期の目的と共に掲げられる絵も素晴らしい。特に祭壇画ともなると、絵そのものの美しさに加えて、厳粛な空気が、絵を見る者にさらに大きな感歎を与える。

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フラーリ教会前の広場が静かなたたずまいでとても気に入る。小運河にかかる太鼓橋に、揺らめく波間の光が反射している。人通りはすくなく、運河にも船は入ってこないし、他の都市なら聞こえてくるであろう自動車の音などもちろん聞こえないから、本当に静かである。こうした街が未だに残っていることに感動を覚える。ヴェネツィアの美しさは風景だけではなく、静穏な空気にもあるのだ。

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朝食を終えて身支度をして、意気揚々として宿を飛び出した。ヴァポレット51番は定刻通りにザッテレの浮き桟橋に横付けされるのだが、乗客が溢れんばかり。スーツケースをもった夫婦、ビデオカメラを構えたサングラスをかけた太った白髪の男。僕も負けじとカメラを構える。昨日と同じように濃いブルーの空を背景に、茶色い鐘楼が見え始め、ドゥカーレ宮殿が花色に輝き、その向こうにサン・マルコ大聖堂の複雑な装飾が見えてくる。サン・マルコ広場は朝早いというのにもう人だかりがしているのだが、そんなことは全く気にならない。ドゥカーレ宮殿と鐘楼が現れただけで溜息が出てしまう。これが同じ地球上の風景なのだろうか。この海が日本まで繋がっていることが信じられないほど。

サンマルコ広場傍のザッカリアという桟橋に到着しゴンドラが何隻もつながれた桟橋の傍にでる。潮位が高く、広場に水が溢れようとしている。これがアクア・アルタっていうやつか、と言う感じ。広場の排水溝から海水が逆流しているのも分かる。

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ドゥカーレ宮殿に入るのも一苦労。一番面白かったのは、地図の間で、18世紀頃?の日本地図もあって、京都のところにはMeacoとつづられていて、九州にはBungoとつづられていた。

ドゥカーレ宮殿から撮った、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島。

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New Year

旅も中盤にさしかかり、さすがに疲労はあるのだが、なんとか早起きをして、ヴェネツィアの夜明けを観に行く。といっても、まだ7時半ちょっと前ぐらい。この日の日の出は7時17分。まだあたりは薄暗い。宿から出て数十メートル歩いたところで、ちょうど朝陽が昇ってくるのに出くわす。幅の広いジュデッカ運河に客船が煙を吐きながら進んでいく。海辺の街灯の形が素敵である。気温が低く、さすがに外に長居は出来ず(防寒着をあまり持ってこなかったのだ)、早々に宿屋に引き上げる。朝食はコンチネンタルスタイルで楽しみにしていたビュッフェタイプではない。トーストされたパンにイチゴのジャムをつけて食べ、珈琲を飲む。

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 端を渡り路地をぬけるとザッテレ地区で、このあたりにスーパーマーケットがあると目星を付けていた。確かに、スーパのレジ袋をもってあるく女性とすれ違ったから、このあたりにあるのは間違いないのだろうが、派手な看板など景観保護上の理由からまったく望めないから、なかなか見つからない。やむなく、子供を遊ばせている、ヴェネツィア人とおぼしき若い女性に尋ねてみると、実に親切にスーパーマーケットの場所を英語で教えてくれる。教えて貰ったおかげで難なくスーパーに到着。旅を安くするには、夕食はレストランで取るのではなく、スーパーで買った食材を部屋で食べるのがコツだ。とはいえ、イタリアのスーパーに入ると、日本にはないものがたくさん売っているからついつい買い込みすぎるのが痛い。生ハムとサラダワインを購入。それでも2000円ぐらいのもので、レストランより全然安い。
 スーパーはザッテレ運河に面していて、赤い夕陽の甘い色に染め上げられている。ビルよりも大きな巨大な客船が、タグボートに牽かれて運河を外海へと向かっている。男と女が抱き合っていて、年配の女性がベンチに腰掛け夕陽を眺めている。現実とは思えない幻想的風景に体も心も溶けてしまう感じ。

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天気に恵まれた一日も終ろうとしていた。サンマルコ広場から路地に入って、ザッテルレ地区まで歩いて帰ろうと、入り組んだ細い路地をグラン・カナルをわたるアカデミア橋まで向かう。所々で路地は小さな水路様なカナルにぶつかるのだが、観光客を乗せたゴンドラが往来していて、漕ぎ手がカンツォーネを歌いながら船を動かしているのに出くわす。バリトンの歌声は立ち並ぶ石造りの建物に反響して思いのほか美しいリヴァーブ感を醸成しているのだが、もっと驚くのはその声の美しさで、歌を職業とする日本人でも絶対に出ないような甘さと豊かな倍音を持つ。つややかな声で、ゴンドラが遠ざかるに連れ歌声も反響の中に隠れていく。僕はこの歌声を聞いて感心すると同時に絶望感をも覚えてしまう。市井の男でさえ持つこの歌声の美しさ。やはり西欧の歌は西欧人にしか歌えないのではないか、という思い……。

アカデミア橋は、グランカナルにかかる木造の太鼓橋だが、橋上では黒い肌のアフリカの男達がブランドもののカバンや絵画を売っていて、警察が来ればすぐに逃げられるためだろうか、手に持てるだけのバックをもって、通りすがりの観光客に愛想笑いを振りまいている。イタリアに来てからこの手の男達を何度見ただろう。フィレンツェにもいたこの男達の売っているものは何故か同じだ。観光客の持つ気怠い雰囲気のなかに、生活のために働く男達、それもきっと違法な商売なのだ。ヨーロッパの繁栄の裏側には収奪されたアフリカの大地が横たわっているということなのだ。

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ヴァポレットの騒擾にくたびれながらも、なんとかザッテルレ地区の宿屋に到着。ヴェネツィアの宿屋は、古くて高い、と言われているけれど、この宿屋は古いと言えば古いし、高いと言えば値段の割には部屋は狭く、シャワーがついていなかったりするのだが、こざっぱりしていて古いヨーロッパの雰囲気を残していたので、まあ良いかなと言う感じ。

チェックインするとき、フロントのお姉さんが英語でなにやらいろいろまくしたてられて、どうやら宿で夕食を全日食べるのなら、一日一人15ユーロで提供できる、云々と、お誘いを受けたりするのだが、こちらは辞退。夕食は地元のスーパーで食材を買って食べた方が安いのである。

部屋でしばらく休息して(ヴァポレットの件と、フロントのお姉さんとのやりとりにつかれたのだ)、サンマルコ広場に行ってみようということで、宿屋を飛び出し、ヴァポレットでサンマルコ広場に向かうのだが、ザッテルレ運河を南東に下り、税関の建物の向こうに、鐘楼が姿を現し、ついでドゥカーレ宮殿のバラ色の壁面が光り輝いているのが見えてきた瞬間は我を忘れた。あまりに美しい。もちろんこの風景はカナレットが描いているから、嫌と言うほど見たつもりなのだが、やはり実際に見る美しさは想像を遙かに超えている。青い空にバラ色のコントラスト。夢中でシャッターを切っていた。素晴らしい風景。

広場横の浮き桟橋で上陸。サンマルコ広場は凄い人で、ここは渋谷か? と思うほど。広場に面したカフェでピアノ、クラリネット、アコーディオンのトリオがイパネマの娘を演奏している。照りつける日差しは強く、南国に来たのかと思うほど。ドゥカーレ宮殿はもちろん、サン・マルコ聖堂の複雑な様式、そびえ立つ鐘楼、ああ、これがプルーストが来たがっていたヴェネツィアなのか、と感激するのだが、ヴェネツィアの感激はこれだけにとどまらなかった。滞在した三日間、毎日違った美しさを噛みしめることが出来たのである。

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船上では若者達のグループが、船員達と話をしている。若者グループの一人で、サングラスをかけた金髪の男が、船員に手を合わせて懇願している。どうやら、警察を呼ばないで欲しいと頼んでいるらしい。僕らは浮き桟橋で船上の様子を見守る。浮き桟橋には、ヴァポレットが停泊したままなので、後続のヴァポレットが浮き桟橋に接岸できないでいて、カナルに停泊しているのだが、状況を理解したらしく、通り過ぎていってしまう。通り過ぎたヴァポレットに載るつもりだった老婦人がなにやら船員に文句を言っている。

そうこうしているうちにモーターボートが近づいてくる。青い船体にはPOLIZIAの文字が。とうとう警官が来てしまったのだ。警察のボートはヴァポレットの右舷に乗り付けて、警官がヴァポレットに乗り込んでくる。若者達は必死に懇願しているのだが、一番ヤバそうで、ラリっている若者、その若者は手から血を流しているのだが、その彼を三人がかりヴァポレットから引きずりおろして、怒声と共に壁に押しつけて拘束しようとしている。若者は必死に抵抗している。乗客達が一斉にヴァポレットに乗り込む。僕たちも一緒に。

満員のヴァポレットは運河を進んでゆく。それでも騒いでいる若者達。ヴァポレットは30分遅れで、僕らの目的地、ザッテッレに到着。ヴェネツィア到着早々のトラブルで疲れてしまった。

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駅前広場は、同じユーロスターで到着した旅行客であふれかえっている感じ。イタリア語はよく分らないのだが、なんとか市内交通チケット売り場を見つけて、72時間券を購入し、旅行前に穴が開くほど眺めたヴァポレット(ヴェネツィアの水上バス)の路線図の指示通り、51番のヴァポレットが着く黄色い箱形の浮き桟橋の列に並ぶ。

このときから、何かがおかしいな、と感じていたのだった。サングラスをかけた短髪のブロンドの若者が、仲間とおぼしき黒髪の若者と握手をしている。若者の仲間が何人かいるらしく、知り合い同士大声で話をしている感じ。もちろん何を話しているのか分らない。そんなこんなで、51番のヴァポレットに乗ろうとする人々は浮き桟橋に入りきらずに長い列を作っている。

到着時間になったというのに、なかなかヴァポレットが現れず、気をもんでいると、ようやくとオレンジ色の電光掲示に51番を表示させる象牙色のヴァポレットが到着。この時点で、待合い客であふれかえっていて、ヴァポレットに全員乗れるかどうか分らない状態。次の便は20分後だったので、待っても良かったのだけれど(後から思えばだが……)、早くホテルについて落ち着きたかったので、重いスーツケースを引きずりながら満員のヴァポレットに乗り込むことになる。

この時点で、待合い客に圧迫されて、連れとはぐれてしまう。まあ、おそらく乗れただろうと思い、甲板から一段下がった船室に降りてしまう。なんとかスペースを確保する。階段の横に設えられた一人分の座席には、黒いアタッシュケースを持った銀髪の初老のビジネスマンが座っていて、彼と眼が合ったのでニッコリ笑って挨拶。

ヴァポレットはようやく動き出すのだが、何か騒がしい。さっきの若者達が甲板の船室の間を言ったり来たりしている。そうこうしているうちに、船室の後ろの方で、若者達が天井を叩きながらわめき出す。何かの歌を歌っているらしい。これは、サッカーファンなのか? いわゆるフーリガン的な若者達なのではないか、これはちょっと嫌な連中と一緒になってしまった、と思う。さっきのビジネスマンが、手招きして、こっちの方が空いているよ、と彼の座席前に入ってくるように勧めてくれたので、若者達から待避するような格好で、ビジネスマンの座席前に移動。

次の停留所に到着。降りる乗客、乗る乗客でヴァポレットはごった返す。若者達、降りてくれないかな、とおもうのだが、まだ騒いでいる。船室内へと入っていく乗客達は、若者が騒いでいることなど全く知らぬまま。舫綱を解いて、ヴァポレット出発。

ここからだった。騒ぎは大きくなる。麻薬をやっているからなのか、酒に酔っているからなのか、よく分らないが、完全にラリっている若者二人が船客に絡み始めている。そのうち一人は、手から血を流していて、手のひらは血糊でドロドロになっている。その血がどうやら、船客の服を汚したらしい。怒った船客が、甲板にあがって、操舵室の船長になにかを訴えている。

ラリっている若者が、僕の目の前に立つ。眼があったので、ニッコリと笑ってやる。なにか呆けたような目つきをしていて、これは常人じゃないな、と思う。だが、全然恐怖感なし。驚くぐらい冷静だった。若者は、初老のビジネスマンになにやら話しかける。厳しい顔をしていたビジネスマンも、ニッコリと微笑みながら若者を睨んでいる。ものすごく格好がよい。映画の一シーンを観ているような錯覚に陥る。あの落ち着きを払った微笑みは賞賛に値する。一生忘れないと思う。

ヴァポレットは次の停留所に舫をかける。そのまま動かない。起こった船客が船長に捲し立てている。ヴァポレットは動かない。何かが起こったのだ。そのうちに乗客が浮き桟橋に移動しはじめる。ビジネスマンもやはり船を降りていく。これは、なにかがあったな、ということで、スーツケースを担いで一旦、ヴァポレットを下りる。ここで連れと再会。連れはおびえきっている。

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 フィレンツェからヴェネツィアへは、イタリア国鉄のユーロスターにて。フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅へは列車出発の30分前には到着する。構内は旅客で混雑していて、高い天井のロビーに人々の声がこだましている。プラットホームへ続くガラス扉の上に発着案内板が掲げられていて、確かにヴェネツィアへ向かう列車は表示されているのだが、 到着ホームの表示は空欄で、どのホームで待てばいいのかわからない。構内放送はしきりにミュンヘン行きのユーロシティが遅延することをわびているだけで、ヴェネツィア行きのユーロスーターについて言及する気配さえない。構内放送を聞き漏らすまい、と必死に耳をそばだてる。

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そういえば、今年のGWにみた「踊れ!トスカーナ」でフィレンツェ駅が出てきたことを思い出す。確かに、映画そのままである。

出発予定時刻寸前になって、ようやく構内放送と案内板が、9番線へ到着することをつけるや否や、大勢の旅客が9番線へと移動を始める。流れに遅れまいと9番線へ急ぐのだが、いったいわれわれの乗る7号車がホームのどこに着くのかがわからない。日本の鉄道ならば、号車番号をホームに表示するのが常なのだが、そういった心遣いをする風潮はないようだ。

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灰色のユーロスターが到着する。すばやく号車番号を見抜いて、トランクを引きずりながらホームを駆けて、目的の7号車に到着。いよいよと乗り込む。今回は、日本でチケットレスで予約と決済を済ませているけれど、ダブルブッキングがないか、などと不安に思う。座席は四人がテーブルを挟んで向かい合って座るスタイル。窓側に連れと向かい合って座り、通路側にはフィレンツェ在住の老夫婦が座る。連れが「隣が席に着いたら笑顔で挨拶するのよ」と言うので、座席に着いた老夫婦に笑顔で「ボンジョルノ」と挨拶を交わす。

列車はゆっくり動き出す。ダブルブッキングはなかったようで一安心。車掌の改札時には、ネットで予約をしたときに送られてくるPDFを印刷したペーパーを渡す。車掌は二次元バーコードを端末で読み取って決済状況、予約状況を確認する。当然問題ない。イタリアのチケットレス列車予約はよく出来ているものだ。

車窓はフィレンツェ市街を抜けてオリーブ畑のなかを進む。僕の隣に座る老婦人がSposare? と指輪を見せながら聴いてくる。辞書で調べるとmarryの意味とわかった。つまり、僕らが結婚しているのか、という問いだったらしい。Si Siと応える。それからしばし英語とイタリア語のちゃんぽんで老夫婦と話をする。ご夫婦はフィレンツェ在住だそうで(うらやましい!)、ヴェネツィアから客船に乗ってギリシアクルーズへ出かけるところだと言う。かろうじてRodiという単語を聞き取る。ロードス島だろう。物静かな旦那さんと、上品に着飾った奥様で、実に気持の良い時間を過すことが出来る。

列車は、ボローニャ、ロヴィーゴ、パドヴァ、フェラーラ、メストレとイタリア半島を北東へと進んで行く。メストレを出るとラグーナをわたる長大な橋。その向こうがわにヴェネツィアのサンタ・クローチェ駅がある。ほぼ定刻どおりに到着。隣の老夫婦と別れの挨拶をして、駅前広場へ出る。

ところが、このあと、とんでもない事件がわれわれを待っていたのだった。

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広場で、けたたましいクラクションが鳴り響く。何かあったのか? と音のみなもとを探るのだが、何も見えない。と、突然デコレートされた自動車が広場に乗り入れてくる。あ、結婚式なのだ、と言うことが分かる。数多の観光客もこれには驚いていて、自動車が乗り付けたヴェッキオ宮殿の入り口に人垣を作り拍手喝采を始める。自動車からは新郎新婦が。ああ、なんてイタリア的なすこしキザめな新郎と、派手な新婦なんだろう、と驚く。派手な二人だったなあ。参列者もかなり派手な感じで、夜の匂いをぷんぷんと匂わせている。

さて、ヴェッキオ宮殿でもセキュリティチェックが厳しいのだが、そのチェックを警察官が一人で行っている。長蛇の列。だが、誰もめげずに並んでいる。宮殿内に入って、チケットを買って階上へ。ああ、ここが大広間なのだ。ここで、コジモが、ロレンツォが演説をふるったのか、と思うと感慨深い。

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壇上からの眺め。同じような風景を、メディチの男達も眺めていたに違いない。
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