圧倒的感動的パフォーマンス!──新国立劇場「ばらの騎士」を観て
R.シュトラウス:歌劇「バラの騎士」(全曲) カラヤン(ヘルベルト・フォン)、フィルハーモニア合唱団 他 (1999/07/16) 東芝EMI |
Hab mir’s gelobt, Ihn lieb yu haven in der richtigen Weis´. Dass ich selbst Sein Lieb´ yu einer andern noch lieb hab! Hab´ mir freilich nicht gedacht, dass es so bald mir aufgelegt sollt´ werden! Es sind die mehereren Dinge auf der Welt, so dass sie ein´s nicht glauben tät´, wenn man sie möcht´erzählen hör´n. Alleinig wer´s erlebt der glaubt daran und weiss nicht wie ß da steht der Bub´und da steh´ ich, und mit dem fremden Mädel dort wird er so glücklich sein, als wie halt Männer das Glücklichsein verstehen. In Gottes Namen.
私が誓ったことは、彼を正しい仕方で愛することでした。だから彼が他の人を愛しても、その彼をさえ愛そうと。でもそんなに早くそれが来ようとはもちろん思いませんでした。この世の中にはただ話を聞いているだけでは信じられないことがたくさんある。けれども実際にそれを体験した人は信ずることができるけれど、でもどうしてだかは分からない──
ここに「坊や」が立ち、ここに私が立っている。そしてあそこにはほかの娘が。あの人はあの娘と幸福になるでしょう。幸福と言うことをよく知っている男達と同じように。
ばらの騎士第三幕より
行って参りました、新国立劇場の「ばらの騎士」。結論から申し上げますと、圧倒的なパフォーマンスに終始驚かされ続け、涙を流さずには聴いておられないほど感動の連続で、現実を忘れ、夢のなかをさまよった四時間半だった、と申し上げましょう。僕は、先だっての「蝶々夫人」でも、滂沱の涙で、あんなにも感動したことはない、と書きましたが、それと同じく、いや、それに勝るほどの公演ではなかったか、と思います。オペラを聴き始めてからまだ五年弱で、まだまだ聴いているかずも少ないのですが、感動係数自己最高に並んだ、ないしは越えたと言っても過言ではありません。
まず、ペーター・シュナイダーが棒を振り下ろして、あの序奏を演奏し始めた途端に涙が溢れました。なぜだか分かりません。弦楽部の美しがすばらしく、シュトラウスのオーケストレーションの甘美さに胸を激しく揺さぶられるのでした。
オクタヴィアンのエレナ・ツィトコーワは、以前書いたように、2003年に新国立劇場でフィガロの結婚にケルビーノ役で出演していますが、そのときの感動が再び訪れます。ツィトコーワの声質は、女声の美しさと言うよりボーイソプラノ的なのです。芯のあるしっかりした声で。圧倒され続けまそた。そして演技が巧い。男らしい挙措が本当に様になっているのです。マルシャリンのカミッラ・ニールントは、その品位ある姿に感銘を受けます。歌も巧いのですが、それ以上に溢れ出る魅力に圧倒去れ続けている感じでした。オックス男爵のペーター・ローゼの歌、演技ともに、慣れたるものと言うことで余裕な感じ。オックス男爵という笑いを誘いながらも歌唱力を要求される役柄を完璧に演じていたと思います。声も良いですしね。
幕が開くと、ジョナサン・ミラーの品の良いセットが出てきます。新国立劇場の「ファルスタッフ」の演出も手がけているミラーさんのセットは、淡い色調の寝室で、左側の大きな窓から朝日が差し込んできています。 第一幕の最後、マルシャリンが煙草を吸って、窓の外を眺めます。オクタヴィアンが馬に飛び乗って行ってしまったのを引き留められなかったのです。キスをせずに追いだしてしまったことを激しく後悔するマルシャリンなのですが、よく考えれば、もうキスをする機会を喪っているのですね。このあと、オクタヴィアンはソフィーと結ばれ、マルシャリンはひきさがるわけですから。我々観客はそのことを知っているから、窓の外を眺めているマルシャリンの心情を慮らずには居られません。そして秀逸な演出は、窓の外に雨が降っていることを表現するのです! 窓ガラスを雨水が伝っているのです。その雨の流れが影となって室内に動く影を投げかけます。マルシャリンの心象風景を完璧に表現しています。
第二幕の聞き所はバラの献呈と、オックス男爵の歌うワルツだと思うのですが、バラの献呈のところ、ここでも泣きましたよ。本当に。テンポはかなりゆったりとしていて、豊かに歌いあげている感じ。幸福の絶頂でした。生きていたら良いことあるなあ、と。 第三幕、オックス男爵を仕掛けで驚かせて警察が来るドタバタの後、黒いドレスを着てマルシャリンが登場。いやあ、本当に威厳があるんですよ、ニールントさんは。その美しさ、気品、威厳に圧倒されて、もうオケの音はほとんど聞こえていない(すいません)。ずっとオペラグラスで眺めていましたが、微妙な表情の変化などをつけて、オックス男爵に対するときは威厳に加えて怒りの表情を品位を保ちながら示す。本当に素晴らしい。 演出も秀逸で、マルシャリンの登場後もドタバタして、舞台上はカオティックな状態になるんですが、その中にあっても、オクタヴィアンはマルシャリンを見つめ続けている。実に秀逸です。
そして最後の三重唱。上品で、甘美で、とけてしまいそう。この曲、シュトラウス先生のご葬儀に歌われたんだよなあ、と思うと、もう涙が止まらない。お恥ずかしながら……。 そうして、最後にファニナルとマルシャリンが手を携えて部屋を出て行く。マルシャリンは、手を取り合うオクタヴィアンとゾフーの方を一瞬振り返るんですね。オクタヴィアンを手放して、身を引いた大人のマルシャリン。でも、最後一瞬だけ心が揺れている。それを振り返ることで表わしている。うーん、素晴らしい。マルシャリンの心情が分かります。
幕が下りた後、当然のようにカーテンコールがあったんですが、新国立劇場でここまで盛り上がったカーテンコールの記憶は僕にはありません。僕もはじめて「ブラボー」と叫んでみました(少し小さい声でしたが……。次はもっと大声出せると良いんですけれど……)。
華麗な舞台、理想的な美へと立ち上ってゆく薫り高いパフォーマンス。うーん、こういう舞台って、なかなか観られないんじゃないでしょうか というわけで、先だっての「蝶々夫人」に続いて、感動にうちふるえた公演でした。いやあ、本当に生きていてよかったです。
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ディスカッション
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nakaさん、コメントありがとうございます。
12日の公演をご覧になったのですね。僕もまた行こうかな、と思っていたのですが、仕事があるのでさすがに無理でした。
オクタヴィアンのツィトコーワさん、歌唱も演技も抜群でしたよね。
雨の演出あったと思います。一緒に行った連れも確認してましたので。もしかしたら僕の涙のせいでそう見えたのかもしれません。
僕は双眼鏡で字幕も観ないでほとんどニールントさん観ていました。綺麗な方でした。感動の三重唱でした。
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私も先ほど、新国立劇場のばらの騎士を見てきました。作曲当時の舞台設定の演出も新鮮で、歌手陣、とくにオクタヴィアンがよかったと思います。1幕の雨の演出、安い3F席最後列だったこともあり気づきませんでした。う〜ん、オペラグラスを借りればよかったと後悔。
やはり感動の三重唱ですね。R・シュトラウスのすばらしい音楽に乾杯!
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ピースうさぎさん、コメントありがとうございます。
少々、感傷的な感想になってしまいました。読み返してみたところ、少々照れました。
私も、ばらの騎士を始めて聴いたのはクライバーの映像でした。あの演奏も忘れられません。
最後の三重唱、感動ですよね。CD聴くだけで涙ぐんでしまいます。
またのご来訪をお待ちしております。
生演奏でピースうさぎさんもお聴きになれることをお祈りしています。
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はじめまして。
熱い感想記読ませていただきました。
ああ、いいですね。生オペラは私の最高の贅沢なのです。
ばらの騎士だけは、死ぬまでに必ず観たいオペラです。
クライバーのDVDを観てから、この曲が好きになりました。
最後の三重唱は映像で観ても泣けます。生で観たら私はきっと死にます。
私は名古屋なので東京か海外に行かないと観れそうにないですね。
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>rudolf2006さん
いつもコメントありがとうございます。おかげさまでよかったです。ヤノヴィッツさんのマルシャリン、良さそうですね! ウィーンのばらの騎士をご覧になられたとは、本当にうらやましいです。
>HIROPONさん
いつもコメントありがとうございます。HIROPONさんもウィーンのばらの騎士をご覧になったのですね。本当にうらやましいです。クライバー盤よりも凄いとは! 素晴らしいですね。
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Shushi様 おはようございます。
「ばらの騎士」見たかったです。指揮はシュナイダーさんだったんですね。かれこれ20年程前、初めて見たオペラがウィーン国立歌劇場の「ばらの騎士」です。指揮はシュナイダーさんでした。オケピットから湧き上がるホルンの音に圧倒された覚えがあります。この時のホルンの感動は、後年クライバーの時にはもう感じられませんでした。クライバーの時は、むしろウィーンフィルの典雅な響きに惹きつけられました。
ドレスデンの「ばらの騎士」行きたいなぁ・・・。
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Shushiさま お早うございます
国立劇場の「薔薇の騎士」良かったみたいですね、歌手も充実していたようですね。
書かれている、第3幕のマルシャリンの歌は本当に良いものですよね。
ペーター・シュナイダーさんは、ヴィーンのシュターツオーパーの公演で「薔薇の騎士」を振られるのを、二度聴いたことがあります。マルシャリンは、ヤノヴィッツさんでしたが。
東京は本当に恵まれているなって思います。
ミ(`w´彡)