とにかく、めまぐるしい毎日が続いていて、生きるために精一杯な感じになっています。やっと1時間だけ時間が取れました。
今日は辻邦生の誕生日です。1925年と言いますので、今から92年前になります。時代は光速で進みます。1999年のお別れの会も今日でした。18年前です。
さて、2005年から刊行された辻邦生全集。ラインナップはこちらのページにまとめています。
その最終巻である第20巻に、未刊行の短編が収められていました。「白鳥の夜明け」という小説です。私はこの短編に気づいていませんでした。全集が出てからもう10年以上が経つというのに。
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「不眠症に悩む主人公は夜の街を散歩するのだが、そこで翼をつけて飛ぶ練習をする男オワゾに出会う。オワゾは優秀なエンジニアとして内燃機関を設計していたが、その優秀さが故に社内で嫉妬を買い、会社の方針とも意見を違えている。オワゾは、公園で見つけた鴎の卵を温めている。卵から雛が孵るのだが、それは鴎ではなかったのだった」
1993年2月に文藝界で発表されていたようですが、未刊行の小説だったようです。たまたま聞いていたこちら「ある秋の朝、光の中で」や「もうひとつの夜へ」を思い出しながら読みました。たまたまフィンジを聴きながらだったのですが、落涙してしまいました。ここに描かれている世界が真実だと素晴らしいと思うのですが、どうでしょうか。最後の場面があまりに美しく、胸を打たれました。
「あいつは飛び去ったのじゃないね。この世界を包む白鳥に変身したのだ」
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戦後は、マッカーサーのおかげで「女が国立大学には入れた」と言われ、今ごろになって、プーチンやブッシュその他の施政者の動向を追うことで、ようやく「革命」も「民主主義」も欺瞞であったことを私は理解した。わずかな部数の研究所や刺繍は純文学作品を、なんとかやりくりして刊行して下さる良心的な編集者や出版社が少しは生き残っている。辻邦生全集やこの書物の刊行も、そんな方々の努力の一端と感謝しながら、「少数の幸福な読者」の手許にどうかぶじに届くようにと祈るばかりである。
中央公論新社 (2011-05-21)
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