By <a href="//commons.wikimedia.org/wiki/User:Diliff" title="User:Diliff">Diliff</a> – <span class="int-own-work" lang="en">Own work</span>, CC BY-SA 3.0, Link
細長い切り抜き文字の看板が縦に「LEONARDO DA VINCI HOTEL」と出ていた。しかし隣の建物の正面がそれよりもすこし前に迫り出しているため、車がそばに近づくまでは見えなかった。(中略)ぼくはこの正面の印象だけで、いやな予感がした。金属パイプの手すりのついたコンクリートの階段にしても、なんだかあまり実用一点張りで、場末の水族館の入口とか、さいはての空港建物の屋上への登り口とかを連想させる。(中略)夜食事まで部屋に休んでいると、時々スピーカーでアナウンスの声がする。そして汽車が通ってゆくらしく、建物がぐらぐら揺れる。僕は思わず椅子から飛び上がって、二重窓を開けて覗いてみると、そこは駅なのであった。
私は、かなり前にフィレンツェに行ったことがあります。夕方、遅い時間にフィレンツェ空港に到着し、中央駅へとバスで向かいました。駅に着こうとするときに、窓からHOTEL LEONARDO DA VINCIが見えたのでした。私は、この「美しい夏の行方」の挿話を覚えていましたので、とっさにバスから写真を撮ったのです。
辻先生の記述と、看板では、HOTELの位置が違いますが、ここが辻先生が泊まったHOTEL LEONARDO DA VINCI なのでしょうか。おそらくは立て替えられたりして印象は違うのかもしれませんが、確かに、駅から遠くはなく、レオナルド・ダ・ビンチの名前を関したホテルということですので、関連がある可能性がたかいのだろうな、と思いました。
まあ、ここは、もしかすると、イマージュのなかで、辻先生が作り上げた「現実」なのかもしれない、などと思いました。必ずしも、文学作品は、我々が普通に見聞きする現実に忠実である必要はなく、文学作品の中に立ち現れる「現実」においてリアリティがあればよいわけです。「美しい夏の行方」と、私が実際に見て写真をとったHOTEL LEONARDO DA VINCIは一致する必要せいもなく、あるいは辻先生が実際に泊まったLEONARDO DA VINCI HOTELと、「美しい夏の行方」に描かれるLEONARDO DA VINCI HOTELは同じものである必要もないわけです。