今日は辻邦生さんの誕生日でした。
9月24日は辻邦生の誕生日でした。1925年生まれですので、ご存命であれば88歳です。
お気づきお通り、邦生という名前は、誕生日からとられたものです。ですので、忘れようがありませんね。
現実は、辻邦生の世界とどんどんかけ離れていきます。フランスへ留学した1950年代から60年代にかけてと、現代世界の違いと言ったら、筆舌に尽くしがたいものがあるでしょう。
現代は、理想が失われた時代、と私は思っています。あるいは、理想を外に出せない、あるいは理想は必ずしも有用ではない時代、とでもいいましょうか。
それが正しいこととも思えませんが、現代は、重要なのは真理ではなく功利である、とも思います。そうした引き裂かれる時代にあって、一度立ち止まり、振り返って足元を見るのに、辻邦生の著作ほど相応しいものはないでしょう。
天上界から眺めているであろう辻邦生の魂は、いまごろ、こんな世の中をどのような感想をもってながめているのでしょうか。
なんだか随分遠くに来てしまったように思います。私達は。
では、グーテナハト。
ディスカッション
越後のオックスさん、ありがとうございます。さすがですね。文学への造詣の深さも素晴らしいです。中村真一郎さん、プルースト楽派ですか。未読だったのが悔やまれます。早速手配します。辻邦生で言うと、最近はやはり「嵯峨野明月記」になってしまいますね。この本にずいぶん救われた感があります。たしか、光悦が金沢へ旅行する下りがありますが、そこで海岸の波濤をみて、世の儚さを認識する場面がありました。辻邦生が理性的でありながら、なお現実を認識する苦悩と和解の姿を見るような気がします。
ご無沙汰しております。パソコンが故障してしまって修理に出しておりました。著名人で辻先生を語るうえで絶対にはずすことができない方は何人かおられると思います。北さんは言うまでもありません。加藤周一さんもそうかもしれません。中村真一郎先生もその一人なのではないでしょうか?辻先生が東大仏文科に入ったときはじめて感銘を受けた講義が中村先生のフランス文学購読だったことはあまりにも有名です。中村先生は大学の先生になりたて、辻先生は大学生になりたての頃だったと辻先生ご本人が「言葉が輝くとき」で書いておられます。中村先生とのお付き合いはお二人が大作家になってからも続いたようですね。「中村先生はよく自分は最近ノイローゼ気味だと言われるが、もともとノイローゼっぽい人なんだよね」と辻先生が書いておられます。その中村真一郎の代表作である、「四季」四部作の完結編、「冬」を読んでおります。谷崎賞を取った第二部「夏」も圧巻の作品でしたが、冬はもっと凄いです。中村先生が源氏物語とプルーストを理想の文学としていたのは有名ですが、その理想が実現した作品だと思います。倉橋由美子さんが「プルースト楽派の巨匠だけが書ける作品」だと書いておられますが、決して過大評価などではないと思います。辻先生が全身全霊をあげて書いたユリアヌスや春の戴冠やフーシェに匹敵する圧倒的な感銘を与えてくれる長編連作です。Shushi様も是非!越後のオックスの近況報告でした。