Classical,European Literature

前にも書いたかもしれないが、音楽を、言葉や文章に表すことの難しさといったら、本当にこの上ないものだ。

もちろん同じことが、絵画や彫刻にも当てはまるだろうし、長編小説に対する感想であってもそうだろうし、風景や人間を描写しようとしたときにも同じような思いを抱くのである。とにかくきわめて困難な仕事のひとつであることは確かだ。

かつて取り上げたように、ホフマンスタールはこう述べる。

ある話題をじっくり話すことが、そしてそのさい、だれもがいつもためらうことなくすらすらと口にする言葉を使うことが、しだいにできなくなりました。(中略)ある判断を表明するためにはいずれ口にせざるをえない抽象的な言葉が、腐れ茸のように口の中で崩れてしまうせいでした。

ホフマンスタール『チャンドス卿の手紙』檜山哲彦訳 岩波文庫 1991、109ページ

チャンドス卿の手紙 他十篇 (岩波文庫)
ホフマンスタール 桧山 哲彦
岩波書店 (1991/01)
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非凡なホフマンスタールさえこう述べているわけで、ましてや僕にはもっと難しいとおもうし、ホフマンスタールがこの文章を述べている地平にさえもたどり着いていないのかもしれない、と思うのだ。

冒頭に書いた「音楽」を「文章」化すること。それも、音楽用語を使わずに行うこと。四度跳躍とか、リタルダントとか。それでいて読み手にある感じを頂いてもらうということ。厳しいがそうせねばならぬ。

Classical

最近My Boomな、ヴォーン・ウィリアムズ。小さいころには、南極交響曲と称される第7番と第8番のカップリングCDをよく聴いていたのだが、どうにもあまり奥へと入っていけない気持ちを感じていた。7番、8番に限っていえば今も同じ感想なのだが、交響曲全集を改めて聴きなおしていると、心を捉えて離さない曲があることに気づく。それが先日来俎上に載せている交響曲第5番と、同じく交響曲第3番である。第3番は「田園」という名称が与えあられているのだが、作曲者の第一次世界大戦の経験が反映しているという。特に気に入っているのが第三楽章に現れるトランペットの輝かしいファンファーレで(後ほど譜面を入れる予定)、この部分を聞くだけで歓喜の念を抱くのである。曲調は全体的に穏やかで「田園」の雰囲気を醸し出すのだが、最終楽章のソプラノが哀調を帯びている。戦死者への追悼と、戦死者が帰ることあたわぬイギリスの田園への憧憬が描かれているのだ、と思うのだった。

ウィキペディア「田園交響曲(ヴォーン・ウィリアムズ)」を参照。

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Vaughan Williams, The Complete Symphonies

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ヴォーン・ウィリアムズの第五交響曲にはまっています。最近は、会社帰りにこの曲でリラックスしている感じです。静かな田園地帯の風景が思い起こされるのですが、それだけをとって、「田舎っぽい曲」として好まれないこともあるのだ、とウィキペディアにありますが、どうしてどうして、まるでミレーの晩鐘のような静謐な美しさをたたえています。確かに、ドイツ音楽とは全く違う旋律美。あるいは、旋法が違うのかもしれません。しかし、これがイギリス音楽の良さだとしたら、少しイギリス音楽に開眼してきているのかもしれません。

今日は仕事の都合で移動時間が長かったと言うこともあって、ショスタコーヴィチの交響曲第5番をロジェストヴェンスキーの指揮で、シュトラウスのアルプス交響曲をカラヤンの指揮で、ヴォーン。ウィリアムズの交響曲第3番をボールトの指揮で愉しみました。交響曲ばかり聴いている感じです。

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Ticket

忘れないうちに書いておこう。

最近CDを聞いていて思うのである。どうやら、オペラやコンサートに出掛けた時の強烈な印象というものは、CDをどんなに聞いても覚えることは出来ない。オペラやコンサートに行くと必ず違う人格へと変貌を遂げているのに気がつく。それは楽曲を誰にも邪魔されることなく聴くことが出来るからだろうし、演奏者の気迫に大きな触発を受けるからと言うこともあるだろう。ティーレマンを聴いたときもそう。新国立劇場のばらの騎士を見たときも、蝶々夫人を見たときも同じ。そして、次は23日のばらの騎士。また違う人格へと変貌するに違いない。そして、それが進歩という名の変貌であることを切に願うのであった。

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珍しく、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲を聴いています。今日は第5番を聞いています。ドイツ、イタリアの音楽とは語法が全く違うなあ、と思いました。クラシックといってドイツものばかり聴いてきただけなのだなあ、まだまだ未知の音楽はたくさんあるなあ、と思っています。この交響曲全集は4年ほど前に購入したのですが、iPodに取り込んでいませんでした。新しいiPodが入手できましたので、安心して全交響曲をiPodに転送しました。

それで、今日は5番を聞いております。

銀色の空を背景して流される白い霧の合間にうち沈む波打つ丘陵地帯は一面背の低い草に覆われている。苔むした石造りの小屋から腰を曲げた老人が出てきて、井戸の水で顔を洗い、白く硬いタオルで顔を拭いているのだが、のばした茶色い髭にはまだ水滴が残っている。軒下で休んでいた長身の毛の短い茶色い犬が尻尾を振って老人にじゃれついている。

そんな印象を持ちました。

中学生の頃には、有名な「南極交響曲」を愛聴していたことを思い出しました。もう何十年も前の話です。

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ブルックナー:交響曲第5番 ブルックナー:交響曲第5番
(2005/04/21)
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、 他

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行って参りました、ティーレマンのブルックナー。
結論から先に申し上げます。いやあ、凄かった。ティーレマン、渋い、と言われますが、それが分った気がします。

16時に開演までオケのメンバーはステージに出ていない。開演のアナウンスの後、楽団員が入場。軽い拍手のなか入場してくる。チューニングは2回。終わって、舞台のの緊張度が高まったところで、ティーレマンが登場。ティーレマンを観るのは初めてだったのだが、その体格の良さに驚く。スポーツ選手のような体格の良さ。背が高くがっしりしていて、ロボットのようだ。

最初のコントラバスのピッチカートもほんの少しタクトを振るぐらい。本当にゆっくりとしたスピード。それは音符のスピードでもあるし、休符の長さでもある。第一楽章は、本当に丁寧にゆっくりとした演奏。タクトは最小限の動きしかしない。あとはティーレマンが腰をかがめて音量のニュアンスを告げている。そうした遅さに負けることなくオケはきちんと解像度の高い音楽を見せてくれる。ほとんど室内楽的なまとまりといっても言い。

第二楽章、冒頭はオーボエ、次にファゴットが加わり、クラリネットとフルートが加わって、弦楽器にバトンが渡される。この冒頭のオーボエがすばらしい。第三楽章の第一主題はかなり早めなテンポを取るのだが、第二主題はすこし遅めになる。きちんとコントロールされている感じだ。

第四楽章、第一楽章と第二楽章の主題が繰り返される。それから弦楽器のフーガがすばらしい。弦の音がとても綺麗で溶けてしまいそうなぐらい。そしてここに最大の見せ場が用意されていた。テンポは第一楽章のそれより明らかに早くなっているし、音量も徐々に高まっていく。第一楽章から第四楽章まで徐々に音量が大きくなり、テンポも加速していっているのだ。そしてコーダーの荘重な速さへ。第一楽章の主題が戻ってくるのだが、明らかに強い緊張感とともに戻ってきているのが分る。このあたりで初めて意図が分る。ティーレマンは第一楽章から第四楽章へ向かう長い坂道を登っていたのだ。

時間だが、概算で計って以下の通りである。
第一楽章:約28分
第二楽章:約23分
第三楽章:約14分
第四楽章:約27分

他の指揮者と比べてみると、以下のようなグラフになる。

ブルックナーの5番演奏比較

  • 青が第一楽章、紫が第二楽章、薄黄色が第三楽章、薄緑色が第四楽章。
  • 単位は秒。
  • 繰り返しの有無や版の違いなどで時間が変わっていることも考えらえる。
  • 今回のティーレマンのライブの長さは、時計を観た概算なので、ブレはあると思う。
  • いずれにせよ、遅い部類に入ることは確実。

驚いたのは、チェリビダッケよりも長いんじゃないか、ということ。確かに、第一楽章のあのテンポの遅さは並ではなかった。

また聞きに行きたいな、ティーレマンのブルックナー。

Classical

明日、サントリーホールで、ティーレマンがブルックナーの5番を振ります。というわけで、聴いてこようと思っています。予習は、チェリビダッケ盤、スクロヴァチェフスキ盤、ヴァント盤、サヴァリッシュ盤、ケーゲル盤で行いました。

ブルックナー:交響曲第5番
ブルックナー:交響曲第5番
  • 発売元: BMG JAPAN
  • レーベル: BMG JAPAN
  • スタジオ: BMG JAPAN
  • メーカー: BMG JAPAN
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  • 発売日: 2003/08/20
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  • おすすめ度 4.0

一番、最近の気分にフィットしたのは、スクロヴァチェフスキ盤でしょうか。バランスが良く、なおかつ内声部が良く聞こえ、テンポチェンジも小気味よい感じです。

ケーゲル盤は、オケに少し乱れが感じられるのですが、気合いは一番です。第三楽章も快速球。決してきらいな演奏ではありません。

サヴァリッシュ盤は、第二楽章冒頭の木管の美しさが印象的。オーボエ(ないしはイングリッシュホルンでしょうか……)とファゴットのユニゾンが素晴らしい。

ブルックナー・チクルス
ブルックナー・チクルス
  • アーチスト: ミュンヘン・フィルハーモニー合唱団
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チェリビダッケ盤は、今の僕の気分にはすこしフィットしない感じ。昔は大好きだったのですが。しかし、チェリビダッケの全てがきらいなわけではありません。というのも、今日、チェリビダッケが振るブルックナーの9番を聴いたのですが、とても感動しましたので。チェリビダッケが好きであることにはかわりはありません。98年に発売された、EMIのチェリビダッケブルックナーチクルス、買ったときのことを思い出します。もう10年も前のことになりますね。あのころは狂ったようにブルックナーを聴いていたものです。

ブルックナーの生演奏は3回目でしょうか。2005年にプロムシュテットがライプツィヒゲヴァントハウスを率いて来日した際に、7番を聴いています。それから、高関健さんの指揮で8番を聴いたことがありますね。意外と生演奏を聴いていない気がします。というか、交響曲を聴きに行くのは本当に久方ぶりです。

明日が楽しみです。きっと良いご報告が出来ると思います。

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バッハ:オルガン作品全集 バッハ:オルガン作品全集
(1997/06/04)
ポリドール

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ヴァルヒャのオルガン全集をiPodに入れて聴きました。音作りが本当に優しくて柔らかい。木製家具の醸し出す手堅い暖かみと言った風情です。キリスト者でもなく、オルガン奏法に明るくなかったとしてもこのあたたかみだけは心底良いと感じます。ヴァルヒャの演奏は、リズム面に於いてはオンタイムな時計仕掛けのような正確無比な演奏というわけではありませんが。そのリズムのうねりもまた味わいとして捉えることが出来るのです。

Classical

ブラームス:悲劇的序曲 ブラームス:悲劇的序曲
(2006/04/12)
オッター(アンネ・ソフィー・フォン)、アルノルト・シェーンベルク合唱団 他

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葉っぱに埃がついたので水をかけて払ってやったでちブログさんで紹介されていたレヴァインの振るブラームスの3番。これ、私も一ヶ月ほど前に聴いてちょっとした衝撃を受けて、いつか書こう書こうと思っていたのでした。今日、rudolf2006さんが記事を書かれていて、強く共感しました。記事の中で、

第1主題のところでも、微妙なクレッシェンド、デクレッシェンドをつけていて

と書いておられるのですが、まさにその通りで、おっしゃるとおり、ここは個性的で聴き所だと思います。全体にたゆたう波のうねりの中に身を任せているような滔々たる演奏です。全体にテンポは控えめと言えるでしょう。それでも最終楽章は快速球のごとく飛ばしていて爽快です。


今日は、所用で都心にでてそのまま直帰したので、体力的にも時間的にも更新することが出来ました。どうも会社から帰ってきてから更新するということ自体に無理がありそうです。これからは以前一時期やっていたように朝に更新しようかな。

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ブラームス:交響曲全集 ブラームス:交響曲全集
(2005/09/07)
ジュリーニ(カルロ・マリア)

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ブラームス全集の中から交響曲第三番を聴いてみる。かなり遅いスピードながら、ジュリーニらしい柔らかくて優雅なブラームスに感激する。ブラームスの構造美も、ジュリーニの手によってたおやかな装飾品が付けられて、よりいっそう魅力的になっている。対旋律が良く聞こえるなあ。第三楽章の物寂しい感じがとても素敵。