Jazz



図書館の検索PCで物憂げな感じで「ブレッカー」と入力してみる。画面には、ランディ・ブレッカー、マイケル・ブレッカー、マイク・ブレッカーと表示される。マイケル・ブレッカーは、古い盤ではマイク・ブレッカーと表記されたこともあったのだ。
何はともあれ、我が町の図書館の保有するブレッカー参加アルバムが予想以上に多いことが分かる。心のなかだけでほくそ笑んで、書架に向かう。あった、あった。この70年代風なジャケットを見て、またほくそ笑む。今度は心のなかだけに押しとどめることが出来ず、笑みが顔面に溢れる。やった、あったよ……。
家に帰って早速聴いてみる。
ああ、この感じ。懐かしいなあ……。
You’re Sorryでは、マイケル・ブレッカーがテーマをとる。いいですな。メロウな感じ。このころのブレッカー・フレーズは、晩年期に比べてそれとわかりやすい。マイク・マイニエリも参加。ガッドのスネアが小気味よく刻まれている。ほとんどステップスのノリ。
Letter To New Yorkの冒頭のブレッカー兄弟、エフェクター使いまくっていてブレッカーブラザーズのアルバムかとみまがうほど。ここでもマイケル・ブレッカーがフューチャーされていて、長いソロを取っている。
When I Got Your Wave “Pathetique"は、ベートーベンの悲愴ソナタをモチーフにした曲。あの有名な旋律が使われている。マイケル・ブレッカーは、エフェクター掛けて、ブレッカー以外の奏者が吹くと恥ずかしいぐらい(自戒を込めて)、定番なブレッカーフレーズを、メトロノームよりも正確なリズムで吹きまくっている。マイク・マイニエリのビブラフォンソロも熱い。
Depature in the Dark-Againは、バリ・フィナティーがフレーズをとる。スティーブ・ガッド様のバスドラム連打が激しい。真夜中、街路灯越しに見える、暗闇に浮かぶ高層ビルを眺めている感じ。
それにしても、メンツが豪華。
・スティーブ・ガッド様
・バリー・フィナティー氏
・ブレッカー兄弟
・デイビッド・サンボーン氏
・ロニー・キューバ氏
・バリー・ロジャース氏
・アンソニー・ジャクソン氏
うーん、垂涎ものとは、このことをいうのだ。

Jazz

ユー・アンド・ミー ユー・アンド・ミー
ファット・ファンクション (2007/02/28)
アップフロントワークス(ゼティマ)

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さらに刺激を求めて、ファット・ファンクションを聞いてみました。このバンド、本当に恰好良いんですよ。ホーンセクションの分厚さとか、ラップとか。むしゃくしゃしているときに聞くとちょうど良い感じに気分をいなしてくれます。

Like a River Like a River
The Yellowjackets (1993/01/19)
GRP

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少し古いですが、イエロージャケッツ。このアルバム、はじめて買ったイエロージャケッツなんですが、最初は全く意味不明、と言う感じ。ところが、数年後に聴き直してみると、いいじゃん、これ、みたいなノリで気に入ってしまいました。ボブ・ミュンツァーは、マイケル・ブレッカーと違う意味で本当に器用です。バス・クラリネットも巧いですしね。

Jazz

シークレット・ストーリー シークレット・ストーリー
パット・メセニー (1992/07/22)
ユニバーサルインターナショナル

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 仕事に疲れたので、食事もほどほどに、ゆったりしたいと思った。iTuneでJazzをランダム再生してみる。最初に流れてきたDavid Sanbornは今の気分にそぐわない。Sanbornはもっと元気のある時に聴くものだった。
 次の曲がヘッドホンから聞こえてきた途端、記憶がパチンと弾けて、20年前のあの日のことを想い出したのだった。
 言語哲学を専攻するN先輩の部屋に、先輩達に連れられて夜中にお邪魔したことがあった。年も押し迫った冬の日のことだった。大学近くの安居酒屋でN先輩とJ先輩と三人で呑んでいた。酔っぱらって、三人とも気が大きくなっていた。その場の雰囲気で、N先輩の部屋に行こうと言うことになったのだった。
 N先輩の部屋は、池尻大橋の細い街路を通って行った先の、木造モルタルの建物の二階だった。6畳の部屋には小さな台所が設えてあった。日本酒を鍋で湯煎をして熱燗を作るのだとN先輩は言った。本棚には世界の名著や青帯の岩波文庫がぎっしり並んでいた。悲劇の誕生、論理哲学論考、純粋理性批判、存在と時間、弁明、メノン……。部屋の片隅には新聞紙がうずたかく積み上げられていた。なんと夕刊の思想欄が保存されているのだった。
「***、ほんまに、N君のこと見習わんといかんで」
J先輩が私を諭すようにそう言ったのだった。まだ一年生だった私は、本棚や新聞に眩惑されているだけだった。私はやらねばならぬのだ、という気持を抱いた。たとえN先輩のようになれずとも、近づくことは出来るだろうと思った。
 N先輩もJ先輩も私と同じように音楽が好きだった。N先輩は帰り際に、私にCDを貸してくれた。Pat MethenyのSecret Storyだった。
「また来てくれよな」
帰り際、N先輩は笑いながらそう言ってくれたのだった。だが、二度とN先輩の部屋に行くことはなかった。
 私が就職することを決意したころ、先輩達から盛んに大学院に進むように勧められていた。N先輩にもやはり勧められた。だが、私は大学院に進むことはなかった。
 こうして、大学院へ優秀な成績で進学していったN先輩と再び会うことはなくなった。
 だが、今日のように、こうしてPat MethenyのSecret Storyを聴くたびに、N先輩のことを思い出すのだった。Pat Methenyの、郷愁をさそう愁いをおびた旋律がきこえるたびに、N先輩に、近づけもせず、応えることもできなかったのだ、という重い事実が立ちはだかっていることを思い出すのだった。そこにあるのは悔恨でも苦みでもない。苛烈で厳然とした運命の力だった。誰をも逃さない運命の網は無情なまでに我々を絡め取り、何処へとも分からぬ方向へと引き摺るのだった。そうして私という者が今あるというわけなのだった。

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Michael Brecker Michael Brecker
Michael Brecker (1992/01/21)
Impulse!
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マイケル・ブレッカーの初ソロアルバムです。パット・メセニー、ケニー・カークランド、チャーリー・ヘイデン、ジャック・ディジョネットなど有名どころが参加。聴けば聴くほど往事のマイケル・ブレッカーを思い出します。
何曲かピックアップ。
Nothing Personal
この曲、マイナーブルースなんですが、テーマがMike Sternが作りそうな変人系フレーズ。作曲はDon Grolnickです。彼も亡くなっちゃったなあ……。たしか哲学学んでたんですよね、Grolnickは。メセニーのソロも聴けます。ベースの音いいなあ、と思ったらCharlie Hadenでした。この曲も大学時代にバンドでやってみました。バンド名はPart and Arbeitでした。
Original Rays
イントロEWIのソロが面白いです。ライブだとアルバムの10倍は長いソロを取っています。EWIでああいう世界を作り出すことが出来るのはマイケル・ブレッカーだけです。伊東たけし氏とはベクトルが違います。もう聴けないのか、と思うと、寂しいですね。テーマのフレーズは希望とか勇気とかそういう気分を与えてくれる秀絶なフレーズです。メセニーも参加。
My One And Only Love
最初の低音の破裂音の迫力がものすごい。テナーでこの長さのイントロをテンション保って吹ききるのは、本当に凄いと思います。のちにアルバム"Two Block from the Edge"で、Skylarkを吹いてますが、このMy One And Only Loveからの派生系だと思っています。はずかしながら、この曲も昔バンドで取り上げてもらったなあ……。

Jazz


American Dream
American Dream

posted with amazlet on 07.01.20
Charlie Haden / Michael Brecker
Umvd Labels (2002/10/01)
売り上げランキング: 33981

全編にわたってストリングスが導入されていて、柔らかい感じに仕上がっています。気になる曲を何曲かピックアップ。
3 No Lonely Nights
静かな曲です。憂愁なテーマをマイケルが歌い上げています。フラジオ音域が素晴らしいです。
5 Prism
キース・ジャレットの手による作品。ヘイデンがキースに相談して、この曲を取り上げることにしたのだそうです。難しいコード進行も何のそのと言った具合に悲哀あるインプロヴァイズを聴かせてくれます。
9 Bittersweet
この曲も甘い曲。ブレッカーはこういうのを吹いても一級品です。ラフな感じのピッチコントロールが哀愁を誘います。
10 Young And Foolish
ビル・エバンスの演奏で有名。冒頭のヘイデンのベースソロのテーマが大好きで、バンドでもやってもらったことがあります。しっとりとした演奏。ブレッカーのテナーも穏やかに寄り添う感じなのです。最後のサブトーンの音の厚みが素晴らしいです。マイケルの息づかいが聞こえてきます。
11 Bird Food
リズムがトリッキーなストレートアヘッドな曲です。
13 Love Like Ours
綺麗な曲です。マイケルのテーマがうたっています。こういうバラードでもちゃんと聴かせるのが凄いのです。ただのテクニカルなテナー奏者ではないわけです。といっても、マイケルほどテクニカルなテナー奏者が別にいるのか、と言われると答えに窮するのですが。というか、最近では、マイケルの真骨頂は、こうしたバラードで歌い上げる部分に多くあるのではないか、と思うのです。
14 Some Other Time (Bonus Track)
この曲もバラード。ここでもマイケルの穏やかなインプロヴァイズ。決して十六分音符を激しく繰り出したりはしません。歌っています。

Jazz


Don't Try This at Home
Don’t Try This at Home

posted with amazlet on 07.01.20
Michael Brecker
Mca (1996/09/24)
売り上げランキング: 15460

マイケル・ブレッカー二作目のソロアルバムであるDon’t try this at homeを聴きました。印象的なカバージャケットでは、マイケル・ブレッカーがテナーサックスを人差し指だけで支えています。それは、マイケルがテナーサックスのテクニックを完全に掌中に収めたことを雄弁に物語っています。
1曲目Itsbynne ReelがEWIのトリッキーな音色で始まったり、5曲目のDon’t Try This At Homeで、テナーとEWIのユニゾンが聴かれたりするなど、先進的なアプローチも見られますが、概して内省的な色合いを基調としているといえるでしょう。大好きなアルバムの一つです。
2曲目のChime Thisのインプロヴァイズはマイケルらしいフレーズに満ちています。4曲目のSusponeは循環形式の曲。マイケルのアウト気味の循環アプローチを聴くことが出来ます。6曲目のEverything Happens When You’re goneは静かに心に残る曲。内省的なテナーサックスの独奏イントロ部から叙情的なメインテーマへ。低音域から高音域にかけてのまるで星がちりばめられたようなテナーサックスの音。マイケル・ブレッカーが彼岸へ旅立ってから全てが始まるとでもいうのでしょうか。それはあまりに悲しくやるせないではないですか……。物語性をおびた7曲目のTalking to Myselfも必聴です。

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Smokin' in the Pit
Smokin’ in the Pit

posted with amazlet on 07.01.17
Steps Ahead
NYC (1999/08/10)
売り上げランキング: 2564

ステップスのアルバムには、マイケル・ブレッカーを始め、スティーヴ・ガッドやエディ・ゴメス、マイク・マイニエリ、ドン・グロルニックなど著名なミュージシャンが参加しています。大学時代に耳にタコができるほど聴いたアルバムの一つです。
数年ぶりにCDをAACに落としてiPodで聴いて涙。そして、最大の泣き場所は、Young and Fine。数年ぶりに聴いたけれど、懐かしいというか何というか。この曲のマイケル・ブレッカーのインプロヴァイズは覚えたよなあ……。サークルの先輩と飲みながら一緒に歌ったこともあったなあ……。
今聴いてもやっぱり覚えています。ああ、このブレッカー・フレーズ、音階を漸的に上げていって、最後にガッドと共に最高の境地に達するあの瞬間。ゴメスの超速パッセージ。時よ止まれ!なにもかも懐かしい!
僕もこの曲をバンドでやったことがありましたが(個人的には完敗でしたが……)、そうした思い出とも重なって、甘みとも苦みとも言えない、複雑な思いの中に沈んでいくのでした。


久々にジャケットを開くと、若いマイケル・ブレッカーの写真が載っている。本当にYoungでFineなブレッカーを聴くと悲しみがつのっていくばかりです。

Jazz

マイケル・ブレッカー マイケル・ブレッカー
マイケル・ブレッカー (1999/10/20)
ユニバーサルクラシック
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Don't Try This at Home
Don’t Try This at Home

posted with amazlet on 07.01.14
Michael Brecker
Mca (1996/09/24)
売り上げランキング: 161987

僕が最も敬愛するジャズミュージシャンであるマイケル・ブレッカー氏(Michael Brecker)が亡くなられました。57歳でした。
http://www.usatoday.com/life/people/
2007-01-13-brecker-sax_x.htm?POE=LIFISVA
ひどくショックを受けています。
数年前から白血病にかかり、闘病生活を送られていたのですが、ドナーが見つからず、娘さんから移植を受けていた、ということは知っていたのですが、よもや亡くなってしまうとは…。57歳ですからね…。若すぎます。
マイケル・ブレッカー氏のことをはじめて知ったのは1991年頃だったと思います。高校生の時分でした。AKAI社のEWIという楽器の使い手である氏のことを、ジャズライフ誌の記事で知ったのが始まりでした。Now You See Itというアルバムが初めてのマイケル・ブレッカー体験でした。
大学時代は、マイケル・ブレッカー氏名義のアルバムはもちろん、参加アルバムを聴き漁りました。サックス吹きとしては、ついぞ真似することすら出来ませんでしたが……。
社会人になってからも、ジャズと言えばブレッカー氏参加アルバムしか聴いていませんでした。
次に来日したら、聴きに行こう、と家人と話をしていたのですが、それも叶わぬ夢となってしまいました。
得も言われぬ喪失感です。この喪失感は1999年にも味わいましたが、またもやという感じです。ブレッカー氏には80歳になってもサックス吹いていてほしかったし、またクールで熱いインプロヴァイズを聴かせてほしかった。最近のアルバムではストレート・アヘッドなジャズを聴かせてくれていたのですが、もう一度フュージョンなブレッカー氏を聴きたかった。
これはもうしばらく元気を出すことが出来ないですね……。