Classical

Violin Sonatas
Violin Sonatas

posted with amazlet on 06.11.13
Johannes Brahms Maria João Pires Augustin Dumay
Polygram Int’l (1993/03/16)
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ヴァイオリンソナタ第1番ト長調作品78を、デュメイとピリスのコンビで聴いてみました。いいなあ、ブラームス!久々にブラームス作品を聴いて本当に癒されました。四方八方から滅多打ちにされたあとにこういう演奏に触れると、深く癒されるのを感じます。できれば、窓から暗い海岸が見える薄暗い部屋で、独りになって聴いてみたいなあ、という感じです。
このコンビは、フランクのヴァイオリンソナタやブラームスのピアノ三重奏曲第1番でも競演しているのですが、それらの録音と同じく、溶けてしまうぐらい柔らかくて甘いアンサンブルなのです。デュメイのヴァイオリンは豊かな倍音をよく響かせています。ピリスのピアノは、ソフトペダルを踏みっぱなしなんじゃないかと思うほど柔らかくて優しいタッチです。この録音ではドイツ的な厳格さではなく叙情性を楽しむことができるのです。もしかしたらこういう音が苦手な方々もいるんじゃないか、とも思うのですが、僕は幸福なことに楽しむことができるようです。
聞き始めるとピリスの静かな和音に導かれてデュメイがそっと弦に弓をおく瞬間が感じられます。最初のヴァイオリンの六つの音符でもう参ったという感じ。この演奏にひれ伏さざるを得ません。穏和な感じの主題は展開部で激しく情感的に揺さぶられます。第二楽章は陰鬱な感じに歌い上げられています。救いなのは長和声で終わることでしょうか。そして第三楽章はすこし寂しげな舞曲風な楽章です。寒風に吹きさらされているドイツの田舎の街を独りで歩いている感覚です。最後はきちんと長和音で終わってくれるのが救いでしょうか。
この曲は1878年から79年にかけて作曲されました。そのころのブラームスは作曲家としてしっかり認知されていました。苦しみながら書いた交響曲第一番も既にできあがっていましたし、交響曲第二番も完成を見ていました。このころのブラームスはとても精神的に安定しているはずなのです。なのに、この寂寥感は何なのでしょうか?北ドイツ人のブラームスが持つ憂愁感が現れている、と片づけてしまいたいところですが、もう少しいろいろと想像するのもいいと思います。