まだ寒い一日──ブラームスのピアノ四重奏曲第1番を聴く
今日も朝から冷たい雨が降りしきる。季節は完全に逆戻りです。昨日は上着を着ていかなかったので寒い思いをしましたが、今日は薄手の上着を着て出勤です。
電車の中ではブラームスのピアノ四重奏曲第一番を。第二番は長調ですが、第一番はブラームスらしいト短調の暗く静かな世界。この曲、本当に大好きでした。というか、今日改めて聞いてまた好きになりました。
実はこの数ヶ月は「オケの曲しか聴くまい」とこっそり思っていたのですが、訳あって昨日ブラームスのピアノクインテットを聞いてから、ブラームスの室内楽を聴きたくて仕方がなくなった感じです。
この曲はシェーンベルクが管弦楽版に編曲しているので、管弦楽版もよく聞いていました。なんでも「うまいピアニストは、表に出すぎてバランスが悪いし、下手なピアノはなお悪いから、オケ版に編曲したのだ」といった具合のことをシェーンベルクは言っていたようですが。
ところがどっこい、室内楽版も私にとってはすばらしくて、学生時代のある時期狂ったように聞いていました。 ちょうどそのころだったと思いますが、パトリス・ルコント監督の「仕立て屋の恋」を見に行ったことがありまして、その中で最終楽章の緩徐旋律が効果的に使われているのに驚いた次第。飯田橋の古い映画館でのことでした。今もありますね。ギンレイホールでした(それにしても、最近映画見ていないですね……。マズイです)。
実演も三度ほど聞いたことがあるのですが、一番すばらしかったのはベルリンフィルメンバーで構成されるベルリン・フィルハーモニー・ピアノ四重奏団のもの。演奏はリズムが時計のように正確で躍動感のある演奏。四人がばっちり合っているんですよね。あれは名人芸でした。すばらしかったです。
さて、今日聞いているのは、くだんのベルリン・フィルハーモニー・ピアノ四重奏団の演奏。演奏会場でCDを購入してサインをして貰ったCDです。 残念ながらAmazon、タワレコ、HMVでは取り扱いなしです。
第一楽章はゆったりとしたテンポながら、スピード感を失わない演奏ですし、テンポも柔軟に変化します。第三楽章の主旋律もよく歌っていますね。ナイーヴなドイツ的良心とでもいいましょうか、実にロマン主義的旋律でして、懐かしささえ感じます。こういう感情はもう現実世界において求めることはできません。ノイズキャンセリングフォンで聞けば、しばしの現実逃避ということになりましょう。まあ闘うことをやめずに逃げることは許されるでしょうから。
第三楽章の中間部は舞曲風です。シェーンベルクが豪放に編曲していたのを思い出します。軽やかな舞曲が重みのある主題へと変調していくのもなかなか聞き応えがあります。第四楽章の、あの「仕立て屋の恋」の主題、とてもゆっくり演奏するのですが、やっぱり躍動感は失われない。さすがですね。
しかし、この感動はどうやって伝えればいいのかわからないぐらいですね。 冬のドイツ、ハイデルベルク、ネッカー河、哲学の道……。昔の一人旅を思い出します。しばし時を忘れて物思いにふけるのでした。
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