11月21日、つまり、ヴォルテールの誕生日ですが、新国立劇場にて「アンドレア・シェニエ」を見て参りました。いやいや、本格イタリアオペラという感じで、三時間弱堪能しました。
まずは、ノルマ・ファンティーニの素晴らしさ。ずいぶん前から新国立劇場にいらしてますが、私は初めて聴きました。本当なら昨年の「オテロ」に出演の予定だったと記憶していますが、残念ながら昨年は降板なされましたので。まずはもうお姿が美しいと言うのが第一印象なのですが、歌も抜群に良かったです。声量、性質も抜群でした。こういう方が世界レベルなんだろうなあ。
それから、シェニエを歌ったアガフォノフもなかなかの方。低い音域でのピッチの揺れが少し気になりましたが、ここぞというところのロングトーンののびは素晴らしいです。声質は硬質な感じですが、これはロシア的と言えるのでしょうかね。昔、パリで「トゥーランドット」を見たときに、カラフを歌ったロシアの方と性質がよく似ています。ドミンゴのような甘みはないんですが、これはこれで気に入りました。
あとは、ジェラールを歌ったガザーレも素晴らしい。冒頭、従僕として登場するジェラールの第一声を聴いた途端にやっぱり引き込まれてしまいました。
演出もすごく面白かったです。もちろん、フィルップ・アルローの手になるもの。この方の青い照明は本当に素晴らしい。払暁の東の空を思わせる群青色が実に印象的。群青大好き。
色々面白い趣向が凝らされていて、各幕の最後は、フラッシュが瞬き、舞台上の登場人物達がスローモーションで動いているように見えるんですが、すべて人々が殺されるシーンになっていました。貴族達が殺され、ジロンド派が殺され、死刑囚達が殺され……。
あとは、第一幕と第二幕の間に出てきたギロチンのCGが面白かったです。小太鼓が刻む陰鬱なビート音が徐々に大きくなるにつれて、CGで描かれたギロチンが何度も何度も刃を落とし、CGのギロチンが細胞分裂のように数を増やしていく。フランス革命の陰惨な恐怖を視覚と聴覚に訴えているようなパフォーマンス。なんだか、こうも執拗に小太鼓のビートが繰り返されるのはミニマルミュージックを聴いているような感覚でした。
最後のシーンで、舞台上の登場人物達は全員殺されて、舞台上に身を横たえるのですが、子供達だけが生き残っていて、舞台奥に駆け込んで、銃を持って三色旗を振り回していました。このシーンは希望を現している、というむきもありますが、私には絶望に感じられました。結局、子供達も大人になれば同じことをするのだ、とい示唆なんでしょう。
フランス革命の残虐性は、次の世代に受け継がれ、人類がある限り永遠に繰り返されるのである、というテーゼ。うーむ、人間というものは悪行を繰り返し、決して進歩しない。弁証法は幻想である。悲しみ。
新国立劇場「アンドレア・シェニエ」