Tsuji Kunio


辻邦生全集〈3巻〉天草の雅歌・嵯峨野明月記 辻邦生全集〈3巻〉天草の雅歌・嵯峨野明月記
辻 邦生 (2004/08)
新潮社

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年が改まってから嵯峨野明月記を読み始めました。この本の文体の美しさは、辻作品の中でも特に絶品です。本当によく醸成された文体だと思います。日本語の美しさを味わいを愉しむことができます。
今日は、海北紹益が絵画について語る部分を引用してみたいと思います。

「だが、絵は違うのだ。絵は、このような地上の権勢に奉仕するようであってはならぬ。画品とは天なるものの謂に他ならぬ。(中略)それはいかに眼に見えるものに似ているかが問題ではなく、いかに眼に見えぬものを表わすかが問題だということを、よく納得しなければならぬ。それはただものを見るだけでは駄目だ。物を見て、その物のもつ清浄な香りにまで達せねばならぬ。物の奥にあるかかる香りに眼識が達してはじめて、わしらは地上のものをこえることができる。絵とは、その清浄な香りをうつすものなのだ。それが天なるものなのだ。この清浄な香りは、地上の財も権勢もついに達することのできぬ境涯である。そこにはわしの心を救いだす何かがある。わしはそれを求め、それを描き出すのだ」

辻邦生「嵯峨野名月記」1990、中公文庫、76ページ
「絵」という言葉を「小説」や「芸術」や「美一般」に置き換えてみたくなる衝動を覚えます。おそらくは辻先生の気迫が表出している部分だと思えてならないのです。しかし、この文章を読んだだけで、辻文学が芸術至上主義であるかのように思ってはいけないと思います。辻文学にとっての美とは芸術にはとどまらず、たとえば通勤途中に感じる朝の太陽の光のあたたかさに感じる幸福感といった美意識をも指すのですから……。

Classical

From For Blog

小学校の頃FMのクラシック番組で「プレリュード、フーガとリッフ」を初めて聞きました。当時ジャズの存在をあまりよく知らなかった僕は、これがジャズなんだ、といたく感銘を受けたのを覚えています。今から思えば、あれが初めて聞いたスイングだったのだな、と思います。同じ番組の中ではポール・ホワイトマンの曲も演奏されていて、ビックバンド・サウンドに胸を衝かれました。こんな音楽があるなんて!と…。
エアチェックしたテープはすり切れるぐらい聴いていたのですが、ある日、間違えてマーラーの復活(指揮はやはりバーンスタインでしたが…)のエアチェックをしようとして上書き録音してしまい、色を失ったのを覚えています。当時感銘を受けた演奏はいったい誰のものだったのか、今となっては探し出すのは不可能になってしまいました。
大人になってからCDを買ったり、テレビで録画してみたりしたのですが、当時の演奏のようなスイングした演奏を探し出せずじまいになっています。今回聞いた盤での演奏は、ウィーンフィルをバーンスタインが振っているのですが、スイング感やグルーヴ感は小学校の頃聴いた演奏に到底及ばないのが悲しいところです。バーンスタイン自身が振っているので期待したのですが…。ウィーンフィルも健闘はしているのですが、聞き手に「健闘している」と言ってしまた時点で駄目なのでしょうね…。やはりウィーンフィルとジャズというのは全く水と油の関係なのか、バーンスタイン自身が振っても駄目なのだなあ、と少しがっかりしてしまいました(それでも健闘しているだけウィーンフィルは偉大なのだと思いますが)。
この曲をジャズ畑の演奏家が演奏している盤を聴きたくなってきます。今年は良い機会なので物色してみようかな、と思います。
ちなみにこの盤の「シンフォニックダンス」の演奏ですが、「フーガとリッフ」に比べれば良質な点が見つかります。"Somewhere:Adagio"や"Finale:Adagio"の弦楽部の美しさが際立つので救われています。オケのハーモニーも美しいです。しかし"Mambo:Presto"や"Cool",Fugue,Allegrettoのグルーヴ感は少々足らないかなと……。リズムが重いのですね。もたり気味というか……。特にスネアのノリが……。頑張って「Mambo!」と楽団員が叫んでいるのがほほえましいのですが……。
めずらしく辛口気味になりました。どうもジャズ関連ですと生意気にもいろいろ言いたくなるものでして…。本当にすいません。一日も「プレリュード、フーガとリッフ」の好演盤を知りたいところです。アマゾンでもタワーでも見つからないのです……。どなたかご存じでしたら是非ご教授ください。

Tsuji Kunio

辻邦生全集〈8〉 辻邦生全集〈8〉
辻 邦生 (2005/01)
新潮社

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「風越峠にて」を大晦日に読みました。昨年の読み納めでした。この短篇を読むのは5年ぶりぐらいになると思いますが、いつ読んでも、気品と情熱を感じる薫り高い短篇だなあ、と思いました。また、今回もまた新たな発見をいろいろとした次第です。

今回は、この短篇に登場する土地について考えてみたいと思います。

風越峠のモデルは?

風越峠は全国に点在しているようです。以下の県にその地名が見られるようです。

  • 宮城県
  • 福島県
  • 長野県
  • 静岡県(二つ)
  • 愛知県

「日本の峠一覧」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2006年12月31日 (日) 07:10 UTC、URL: http://ja.wikipedia.org

辻先生は旧制松本高校に通っていらしたので、おそらく松本市北部にある風越峠が、辻先生にインスピレーションを与えたのではないか、と想像します。こちらに写真が載っていました。

軟弱派峠道紀行(2007年1月1日アクセス)

「私」と谷村が泊ったホテルは?

文中には「東山に近い」ホテルに泊ったと在ります。以下の理由から、これは現在の「ウェスティン都ホテル京都」ではないかと思われます。ホテルのロビーには外国人が居るという描写があることから、比較的規模の大きいホテルではないかと想像されます。また、「私」と谷村は再会の夜、南禅寺近くの料亭で食事をしています。南禅寺はウェスティン都ホテルのすぐ傍ですので、自然と近くの料亭で食事をとることになったのでしょう。
地図のAの地点がホテルです。ホテルの北東に南禅寺があります。
「ウェスティン都ホテル京都」は、かつて「都ホテル」という名称でしたが、ウェスティンホテルの系列下に入り現在の名称となりました。おそらく二人が泊った頃は「都ホテル」という名称だったのでしょう。

「私」と谷村が乗った電鉄とは?

間違いなく近鉄京都線だと思います。京都から奈良へのアクセスは近鉄とJR奈良線の二通りが考えられますが「電鉄にゆれられ、いくつか乗り換えをし」という言葉から、近鉄を使ったのではないかと想像されます。JR奈良線を使ったのならば、電鉄ではなく国鉄と表記をしたのではないでしょうか?
二上山の麓の駅は、近鉄南大阪線の二上神社口駅と思われます。ここから1時間30分山を登ったところに大津皇子陵があります。したがって、以下のような旅程だったのではないでしょうか?

●京都
|  8:40発
|    近鉄京都線(急行)41分
↓大和西大寺
|    近鉄橿原線(急行)26分
| △9:50着
○橿原神宮前
|  9:55発
|    近鉄南大阪線(普通)22分
| △10:17着
■二上神社口

二上神社口駅は「にじょうじんじゃぐち」と読みます。駅と大津皇子陵の位置関係はこちらの地図・航空写真の通りです。

先日も書きましたが、僕が「風越峠にて」を初めて読んだのは近鉄京都線の車中でした。京都駅から京田辺市へ向かうために乗っていたのです。これも一つのシンクロニシティと言えるのではないかと思った次第です。

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Classical




ピアノ協奏曲第2番を聞いています。強烈だなあ、と思います。特に第3楽章の切迫感とリズムの激しさにはおののいています。パーカッションのリズムが複雑かつ効果的ですね。ピアノもパーカッション的に使われているように感じます。これも若いうちに聞いておきたい曲だと思いました。

Tsuji Kunio

見知らぬ町にて (1977年) 見知らぬ町にて (1977年)
辻 邦生 (1977/07)
新潮社

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辻邦生作品の今年の読み納めを何にしようか迷っています。
僕が初めてかった辻先生の文庫である「見知らぬ町にて」のなかから選んでみたいと思います。
そうですね、今年の読み納めは「風越峠」にしてみようかな、と思います。この短篇、とても気に入っています。初めて読んだのは15年ほど前の近鉄京都線の車中にて。人間を揺さぶるどうしようもない運命性に心を動かされたのを覚えています。それから何度となく読み返しました。僕の中では辻作品のトップテンに入る作品です。また新しい発見が在るかもしれません。明日から短い休暇が始まりますので、読書時間もすこし取ることが出来そうです。楽しみですね。

Opera

Richard Strauss: Vier letze Lieder/Die heiligen drei K醇rnige aus Morgenland/Capriccio (extract) Richard Strauss: Vier letze Lieder/Die heiligen drei K醇rnige aus Morgenland/Capriccio (extract)
Richard Strauss、 他 (1990/10/25)
Deutsche Grammophon

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カラヤンの振るカプリッチョ終幕の場面を聴きました。ソプラノはアンナ・トモワ=シントウです。月光の音楽の美しさは格別。カラヤンの美意識と音楽の持つ美しさの歯車がかっちりと合っている感じです。トモワ=シントウのダイナミックレンジの広さには脱帽でした。

Classical

Bruckner: Symphony No. 5 Bruckner: Symphony No. 5
Anton Bruckner、 他 (1997/02/11)
BMG

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ヴァントのブルックナーをふと聴いてみました。ベルリンフィルとの力強く端整な演奏。初めて聞いたときには大きな感動を覚えたものです。ヴァントが亡くなってからもう5年近くが経とうとしているのが信じられません。

Classical




スヴェトラーノフ指揮ソ連国立管弦楽団(?The USSR Symphony Orchestra)によるスクリャービンの交響曲全集を買いました。ジャケットから解説書に至るまでキリル文字の連続です。
今回は名曲300に数えられている4番の交響曲「法悦」を聞いてみました。トランペットの咆吼が印象的。きっともっと若い頃、10代に聞いておけば良かったなあ、という曲・演奏でした。もっともそんな若い頃は今のようにCDは安くなかったしお金も持っていなかったので仕方がないのですが……。