新国立劇場「愛の妙薬」その2


休憩時間は残り六分。オペラシティにおいてはデジタル数字が一種のモティーフになっていて、新国立劇場の東側の通廊にはデジタル数字がいくつも光り輝いています。この休憩時間残を表すデジタル数字もそうしたコンテキストの中のもの。
さて、昨日に引き続き「愛の妙薬」について。

演出

今回の演出、モダンで素敵でした。Elisirという題名にちなんだ、アルファベットのオブジェを利用したもので、視覚的にも楽しめました。で、不思議なんですが、elisirって、薬という意味ではない。elisirとは「芳香性のある植物をアルコールに溶かしたリキュール」と伊和辞典には書いてありました。これも、明日書くことになるであろう私の妄念のなかで大きな意味を持つはず。
それから、分厚い本も重要な役目を果たしています。パンフレットによると、ヒロインのアディーナだけが本を読むことができるという設定。彼女が読んでいるのが「トリスタンとイゾルデ」の本ということで、舞台上には巨大な本が両側に三冊ずつ、計六冊が据え付けられている形です。背表紙の文字は、奥からドイツ語、日本語、イタリア語で「トリスタンとイゾルデ」と書いてあるという寸法。この巨大な本が稼働して舞台を構成します。本の表紙にはTRISTANOとISOTTAの文字が。つまりイタリア語でいうところの「トリスタンとイゾルデ」の意味。それから、番号の書かれた書物が時に台になったり、椅子になったりする。プロンプターボックスも分厚い本の形をしていたりと、書物自体が重要な意味を占めています。
一応リブレット的にはバスク地方と指定されていますが、衣装的な時代性もあえて曖昧にしています。七〇年代から八〇年代のものでしょうか。舞台が欧州であることに疑いはありませんが、時代や場所はあえてぼかしている感じ。
演出自体はスタイリッシュで非常に好印象です。少し笑えたのは薬を売るのが、ドゥルカマーラに付き従う二人の赤いドレスのモデルのようにスタイルの良い売り子の女性二人なんですねえ。で、第二幕の冒頭、指揮のパオロ・オルミが登場すると、二人の売り子売り子の女性がオルミに薬を売ろうとする。オルミは、お札を出して薬を買って、コンマスにも勧めたりして、と、二幕冒頭で物語り世界と実世界が結節するという面白い演出がありました。こういうの、たまにあるんですけれど、私はこの類の舞台と現実のつながりが、夢と現実の橋渡しをしているようで大好きです。そういえば、昔「セヴィリアの理髪師」をシラクーザの出演で見たとき、シラクーザは舞台からオケピットに向かって指揮をしていましたねえ。こういう演出ラヴです。
演出のチェーザレ・リエヴィはイタリア人の演出家で、ウィーンやメット、チューリヒでも舞台を手がけているようです。チェーザレって、ラテン語読みだとカエサルですね。

解釈

解釈が一番面白い。でも、今日は時間がないのでここまで。明日書きます。予告だと、
* アディーナの心変わりの真の理由
* ドゥルカマーラの現代性
* ベルコーレはリクルーター
などを予定しています。

Opera

Posted by Shushi