うーむ、切ない。ジュンパ・ラヒリの「その名にちなんで」を読了。アメリカに渡ったインド人夫婦の物語から始まり、その息子ゴーゴリを焦点に物語は進む。いわばゴーゴリのビルドゥングスロマン的物語。家族との別れ、女性との出会いと別れが、淡々とした筆致で描かれていく。 ゴーゴリと世代が同じぐらいと言うこともあって、感情移入してしまう。もちろんゴーゴリのほうが優秀なんですが。
少々ネタバレですので色を変えます.
私がこの物語でもっとも印象的だと思ったのは、描き込まれた幾重もの出会いと別れ。それは女性であったり肉親であったり。人と人とはいつかは必ず別れるものだけれど、それはいつ訪れるのか分からないということ。特に父親の死のシーンはツンとくる。ある種の畏怖を持って接していた父親が突然いなくなる。いや、いなくなるだけならいいのだが、父親の遺体と対面し、父親が単身赴任していた部屋で生活の跡に接するのはあまりにもつらすぎます。
この作品は、三人称一元描写なのですが、描写の主体が章によって変わっていくのがおもしろい。最初は母親のアシモの視点からはじまるのですが、そのうちにゴーゴリの視点が主なものとなり、ゴーゴリの妻モシュミの視点となったり。読者はそうした視点の飛躍をも楽しむことができます。 それから、プロットにおける因果律のうち、結論に当たる部分を語りすぎないところも気に入りました。結論は読者の想像にゆだねられるか、後日談としてさらりと触れられるだけであることが多い。結論まであまり書き込むべきではない、というのはよく言われることだけれど、結論の端折り(はしょり)かたがうまいのです。
しかし、読み終わってなぜか落ち込みました。ほかの理由もあるのですが、感情移入しすぎかもしれませんね。落ち込んだ理由としては、この本だけではなくほかの要因もあるのですが……。