Opera,Richard Wagner

今日も寒いですねえ。今晩の関東は雪が降るそうです。午後は外出だったので寒さが身にしみました。明朝の電車が心配です。
さて、今日はキース・ウォーナー氏の演出について。
月曜日にも少々触れましたが、今回の演出、全般的に私にとっては好印象でした。キッチュな側面とシリアスな側面の不安定な融合が実に効果的でして、視覚的にもまったく退屈することのない演出でした。
幕前には赤い鉄床(かなとこ:あるいは鉄敷)がおいてあります。まあ、これはミーメが鍛冶屋であることや、ノートゥンク(ヴォータンがジークムントに与えた剣を鍛えるということを暗示しています。 第一幕はミーメの家です。四方八方に監視カメラが設置されていて、モニタにはカメラ映像が映し出されているという設定。ジークフリートはわがままでぐれた男の子のような感じ。ノートゥンクは、いったん溶かして鍛え直す、というのが本来のあらすじですが、この演出ではジークフリートがノーゥトンクを包丁で切り刻んでミキサーにかけて、作り直すという読み替え。強烈な皮肉です。
第二幕の冒頭左上から巨大な矢印が舞台中央に向けて斜めに落ちていて、Nachthäleと書いてある。舞台前面には二つの部屋。これ、場末のホテルといった感じで、左側にはさすらい人ウォータンが、右側にはアルベリッヒがいる。ヴォータンはさしずめ疲れ切った地方周りのセールスマンという風情で、アルベリッヒは松葉杖をついている。二人は壁を隔てているのだが、互いの気配を感じている。二つの部屋はなぜか扉でつながっていて(実際にはこんなホテルはないと思いますが)、二人のダイアローグはこの扉を通じて行われます。
ジークフリートのもの思いのシーンでは、着ぐるみで動物たちが登場するというこれもまたキッチュな感じ。大蛇ハフナーは舞台奥に巨大な木の怪物として登場しました。
面白かったのは、ハフナーを倒して指環を手に入れたジークフリートから、ミーメが指環を取り戻そうという場面。ミーメは眠り薬の入った飲み物を飲まそうとするのですが、大蛇の血をなめたジークフリートにはミーメの内心がわかってしまう。ここの表現は、ミーメは舞台と舞台裏を行ったり来たりするのですが、舞台裏からミーメの映像がテレビに映し出されて、ミーメはの内心はテレビを通じて歌われます。この感覚、結構好きです。映像は緑色のフィルターがかけられていて、色彩感覚がすこし異常な感じに仕立て上げられていました。
第三幕冒頭、エルダ登場のシーン。エルダは回転する巨大なジクソーパズルのピースの上に横たわっています。天井へ(つまり地上?)へとつながる三つのはしごからは三人のノルンと思われる人物が降りてきます。床には映画フィルムが散乱しています。このフィルムのイメージは「ワルキューレ」でヴォータンが映画フィルムを編集するような場面がありましたがそことつながっているのでしょう。
ジークフリートはこの幕ではブレザーを着ていて、少々大人っぽい感じに成長しています。ブリュンヒルデ登場までは、舞台前面が黒い壁で覆われて中の様子をうかがい知れません。左右にそれぞれ緑と赤の照明で照らされた扉があります。意図的かどうかわかりませんが、この光の配置は船や飛行機の燈火と同じです。
まずは、防火服を着た鳥の声の歌手が登場しますが、これはブリュンヒルデを包むローゲの炎の暗示です。その後ジークフリートが登場。右側の緑色の扉から登場し、左側の赤い扉から中をのぞき込む。ブリュンヒルデを見ているんですね。
ブリュンヒルデは、舞台上の傾いだ銀色に輝くベッドに横たわっています。背後では火が燃えていまして、私は常々舞台上で火を使うのが不安で不安で仕方がないのですが、やっぱりあのときも不安でいっぱいでしたが、まあ途中で消えましたので良かったです。
銀色のベッドは強く白い光が反射していて実に神々しい雰囲気。ブリュンヒルデは真っ白い服に真っ白い運動靴。ジークフリートも運動靴です。で、この理由はおそらくは、傾いだ銀色のベッドの上で演技するからでしょう。傾いて滑りやすいベッドで、下手をすれば転倒だと思いますので。
鉄床は、第一幕では普通に置かれていましたが、第二幕では傾いていて、第三幕では巨大な鉄床になっていました。
明日は総括を書く予定。