Tsuji Kunio

辻邦生の短篇選集を手に取りました。つまみ読みしてみました。「ある生涯の七つの馬車」から、「二人だけの秋」。主人公とエマニュエルは、秋に城館で過ごしているのですが、そこで起きる失踪事件とその背景を知ることになります。

というと、なんだかな、という感じですが、この後ろには二つの物語があるわけですね。一つはスペイン内戦にかかわる物語。もう一つは主人公とエマニュエルの物語。この短編を読むだけでは、その二つの物語はわかりませんが、100編の短編を読むとわかるようになっているはず、です。ただ、分厚い文庫本7冊を読み切るのは時間もかかりますし、記憶も薄れます。私もスペイン内戦にかかわる物語は一本の筋で見ることはできていない気がします。

しかし、主人公とエマニュエルをめぐる物語は何か一貫した筋書きのようなものが表れている気がします。この「二人だけの秋」は、100の短編の終盤に配置されているものですが、実は、主人公とエマニュエルは、一時期別生活を送っており、再会に際しての緊張感のあと、なにか関係を取り戻していく過程においての短編が「二人だけの秋」であり、そこに現れるなにか、主人公とエマニュエルの間で交わされる、美しく豊かな言葉のコミュニケーションを読むと、静謐な安堵があり、それは混沌から秩序へと移る物語構造の完成への道程を感じさせるものでもあったりします。

その安堵と構成美を感じることで、何か私も、この短篇を読んで、とても幸福な気持ちになりました。

あすもつづくかもしれません。

それでは。