ワーグナーと<<指輪>>四部作
文庫クセジュに入っているこの本。ジャン=クロード・ベルトン氏によるリングの簡便な入門書です。購入したのはずいぶん前でしたが、実際にリングを見聞きしないと理解は進まなかったです。今回は良い時期に読んだと思います。
やはり、指環や黄金は資本主義を象徴しており、アルベリヒに支配されたニーベルング族が働かされている情景は労働者階級のそれを思わせるとの記載がありました(127ページ)。私の仮説の裏づけになりました。読んで気づかされたのが、黄金についての考察が私に足りなかったこと。指環と黄金を同一視しすぎていました。でもやはり黄金もしもべこそ資本主義ですし(金本位制だった昔を思い起こします)。また、この本でもユダヤ系財閥のロスチャイルドについての言及が見られました(112ページ)。
ライトモティーフ(示導動機)の位置づけについての記載もありますが、ちゃんとライトモティーフを整理しないといけません。勉強がてらMIDIに落としてまとめたい、という欲求はかなり前からあるのですが。まあ、これだけ聴いていればなんとなくはわかってくるのですが、ちゃんとまとめたいところです。
けれども、やはりジークフリートの死と、ブリュンヒルデの自己犠牲こそ、権力への激しい欲望に対する愛の勝利を象徴する、というくだり(72 ページ)は、どうにもまだ理解ができません。このカタストローフ的な破壊は、二つの大戦を予言していたとも取れますが、その結果が「愛の勝利」だとしたら、そんなものはまだどこにもありません。完全な破壊はまだ起きていないということでしょう。また、それを期待するのはあまりに無節操で馬鹿正直です。
この最後の問題は、わからないまま。今月の「神々のたそがれ」を聴くことになりそうですが、なにがわかってくるのか楽しみです。
それから、それに関連して、少し感動した一節を。二重引用は学術論文ではタブーですが、ブログではいいですかね。
生命、幸福、栄光と人間の努力は、地上を影のようによぎり、そして消え去っていく。美の刻印のみが、素材の上に永久に彫り刻まれて残るのである。(ニコス・カザンツァキス(1885~1957)) (158ページ)
この「生命、幸福、栄光、努力」は、逆の意味も含んでいるはず。「死、滅亡、不幸、凋落、恥辱、倦怠」は、影のようによぎるだけ。後に残るのは、なんらか美的なものである、という直感。危険を承知で、あえて引き付けると、辻邦生の「美が世界を包む」、「美が世界を形成する」という考えと通じ合っている。
そうなんですよ。メディチ家の男たちより、ボッティチェルリやミケランジェロの作品こそが現代も大きな力を保っているのですから。
しかし、とはいえ、食べて眠り起き上がらなければならないということも事実。難しいものです。だが、ジークフリートとブリュンヒルデの死がもたらしたものが、美だとしたら……。
もうすこし考え続けましょう。
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