Book,Classical


手に汗握るエピソードのかずかずでしたよ、本当に。
NHK交響楽団の首席オーボエ奏者の茂木大輔さんのエッセイ集。というより、これは音楽家の波瀾万丈、スリリングならドキュメンタリーです、
楽器をやらなければわからないことというものがあります。どんなにオケ好きでも、楽器をやっていれば、楽器から眺めたオケの批評ができますが、楽器をやらない者にとっては、そうした見方がわかることはありません。
ですが、この本を読めば、そうした楽器を通したオケの見え方がよくわかります。
例えば、ベルリンフィルのかつての首席オーボエ奏者だったシェレンベルガーが、マーラーの九番第一楽章の最後で見せた信じがたい演奏。茂木さんの解説を読めばその恐ろしさは想像できます。

オーボエが苦手な、「小さい音、低い音、非常に長い音」という条件を3つとも備えた「三重苦ソロ」である。下手をすれば音そのものがスタートしないか、してもエンストして途切れるか、もっと悪い時にはぶがっ! と爆発してすべてをぶち壊す可能性があるという、恐ろしい場所なのだ。

ああ、想像できます。
(全然比較にならんですが)、私もかつて2年ほどやっていたプログレ・バンドで、ハチャメチャにしごかれていた時、そういうことがありました。
それからこんな下り。

一時間半の休みの間に、おれは、「天才」リードにも、早くも寿命が来たのではないか、と思うようになった。おれは「天才」と同じ日に生まれた「兄弟」を取り出して、楽器につけてみた。
「いける!」

信頼していたリードが、いつの間にかヘタっていたという恐怖。リードを変える判断の恐ろしさ。

あとのリードは、すべて、音色、ピッチ、反応など、何らかの意味で完全不合格だったのだ。ということは、このメイン・リードにもし刃物を入れて、凶とでた場合、バックアップには入れるリード、リリーフは、今回については一本もない、という、まさに背水の陣なのだ。

ああ、もう想像するだけで恐ろしい状況です。ライブ前にリードが全部ダメになってしまっうのではないかという恐怖。
私もかつてはサックスを吹いていました。
サックスはシングルリードで、オーボエはダブルリードですので、難しさは全く違います。また、サックスの場合、リードは出来合いのものを買ってきて選ぶだけですが、茂木さんの場合はリードを自作されていますので、大変さは比べようもないです。
それでも、あのリードの手持ちがなくなる感覚や、へたったリードがいうことを聞かなくなる感覚がよくわかり、読みながら肝を冷やしました。
それ以外にも、シャルル・デュトワの完璧主義とか、「ビータ」と呼ばれる演奏旅行のことなど、茂木さんの独特のタッチで軽妙に料理されるオケ好きにはたまらないエピソードの数々。
1998年と言いますからいまから15年も前の本ではありますが、輝きは失われませんね。その他の茂木さんの本も読まないと。
明日で今週は終わりますが、わが部隊の精鋭は明晩夜間戦闘任務に。私も少しは援護しないと。