先々週の第3121号に図書新聞に《オペラハウスから世界をみる》の書評が出ましたね。
実は、縁があって話をいただいたので、この本の書評を書かせてもらうことにしたのです。
とにかく、この本は、オペラを深読みする楽しみを教えてくれる本です。
特に、リチャード・ジョーンズが演出したベルリオーズの《トロイ人》の読み替えについての紹介がすばらしすぎです。なんと《トロイ人》が、戦後のアメリカに置き換わり、アメリカの覇権主義への批評に衣替えしているのですから。
こういう読替え、賛否両論と思いますが、私は結構大好きです。
実際に見ていなくても、かなり詳しく書いてくれていますので、その面白さが手に取るようにわかります。
※ 映像が入手できるともっといいのですが、まだ見つけることができていません。
あとは、やはり女性ならではの視点が盛り込まれているのがいいですね。《ムツェンスク郡のマクベス夫人》や《ペレアスとメリザンド》の解説はある意味衝撃を覚えました。男には分からない視点というものが、オペラ批評を通じて語られていて、目を見開かされた思いです。この本のオペラ批評自体が、著者の現代批評にもなっているわけです。
森岡さんの解説があるからこそ。これは、たとえるなら、「江川の解説で野球を見る」、「北の富士の解説で相撲を見る」ぐらい面白いです。
オペラは、時代を映し、時代を批評するものです。私たちも、新国立劇場の《ヴォツェック》や《ピーター・グライムス》を観ると、オペラは決して夢の世界ではなく、現実を現実以上に映し出す鏡だということを実感しました。台本作家や作曲者が意図していない新しい価値を想像するのがオペラ上演なんですね。そうした物の見方を教えてくれる良い本でした。
《オペラハウスから世界を見る》も、図書新聞もおすすめです。
《オペラハウスから世界を見る》を読みました。