Italy2007

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つづいて、パラティーナ美術館へ。レストランをでて、暗く狭い路地を登っていく。暗い路地には小さな商店が幾つもある。煙草屋、小さなスーパー、花屋。暗い路地をぬけると一気にぬけきった青空と輝く堅牢な石造りの宮殿が視界の中に拡がる。ピッティ宮殿だ。トスカナ大公国時代には大公が住み、イタリア統一に際しては、一時イタリア国王の居城ともなったピッティ宮殿内には、パラティーナ美術館などの美術館が設置されている。今回の旅の目的の一つである、ラファエロの聖母子像を観ることができるはずである。

ここでも入場に際しては手荷物のX線検査と金属探知器の洗礼を受ける。この街の観光スポットでは、どこもそうした取り扱いをしている。

さて、パラティーナ美術館の陳列は近代以前の並べ方である。通常の美術館に於いては、年代別、地域別に分類されていることが多いのだが、ここはちがう。バラバラに、壁一面に絵画が下げられているのである。これには思ったより違和感を感じた。上の方の絵が光ってよく見えないのである。とはいえ、有名なラファエロの二つの聖母子像をは目の高さに架けられていて、とても見やすい。

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小椅子の聖母。写真とは全く見え方が違う。絵の具の厚みと筆遣いがよく見てとれる。実物を前にしてしか見ることのできない現実感。絵がいままさにここにあるのだ、と言う緊張感。そして絵の奥に拡がる実在がいまそこにあるという感触。

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大公の聖母。ラファエロにとっては、女性を愛するということが、仕事と同じぐらい重要事だったに違いない。絵の構図の手堅さは凄い、と感じ入る。

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ウフィツィを後にして、アルノ河の対岸に渡る。ヴェッキオ橋にはたくさんの観光客。渡りきってすぐに右折して、暗い通りを東に歩き続ける。目的地は、連れが探してくれた美味しい料理屋さん。地元の人が行くらしく、手頃な値段で楽しめるらしい。ということで、サンスピリト教会の脇を通って、路地に面したトラットリアに入る。奥の部屋の席まで案内されるのだが、地元の男達がたくさん食事をしていて、不思議なことに入ってくる男達と頻繁に挨拶を交わしている。まるで、このレストランのお客全員が知り合い同士なのではないか、と思えるほど。実際にそうなのかもしれないけれど、こういう風景は日本では全く思いつかない。もちろん写真食堂のような限定された食事場所でならあるかもしれないけれど。というか、本当にお互い人なつっこくしゃべっていて、イタリア語で僕らに話しかけてくる男もいて、スリリング。給仕のお姉さんは色黒で男勝りな口調で、お客とやり合っている。みんな食事を心から愉しんでいる感じ。隣の男は、白身魚を頼んで、黄緑色のねっとりとしたオリーブオイルをたっぷりかけて食べている。醤油のような存在なのだ、と聞いたことがある。まさにそう言うことなのだろう。

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これは連れが食べたジェノベーゼ。

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これは僕が食べたキノコのスパゲティ。

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これがデザートにとったケーキ。10月頃だけ味わうことが出来るパイらしく、上には赤い葡萄の実が一面に。食べると、葡萄の甘酸っぱい匂いと共に、葡萄の種のジャリッと言う食感。種なし葡萄ではなく、種ありなのだが、よく焼けているので、種ごと食べられるというわけ。美味なり! 隣のテーブルの親切な男が、ToscanaのTipicoと言ってくる。どうやらトスカナ地方の典型的なデザートなのである、ということを言いたかったらしい。言葉が通じないというのに話しかけてくるなんて言う経験はこれまではなかった。少なくともドイツではなかった(のだが、イタリア旅行の帰り道寄ったドイツで、親切な何人ものドイツ人に出会うことになるのだから、本当に旅行というものは面白いものである)。

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ウフィツィには、ラファエロの絵がいくつかあるのだが、このラファエロの自画像と言われている画にご対面。それから、レオ10世の有名な絵も。世界史図表に載っているものと同じだ。感動。
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しかし、残念だったのは、ヒワの聖母が修理中だったと言うこと。なんと模写の絵が飾られているのだが、あまりに酷い出来映えで、連れと顔を見合わせてしまう。なんともかんとも、もう少し良い模写をかけないものだろうか? 

ラファエロでいえば、パラティーナに何枚かあるので、そちらを楽しみにすることにする。

Classical

ブルックナー:交響曲第5番 ブルックナー:交響曲第5番
(2005/04/21)
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、 他

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行って参りました、ティーレマンのブルックナー。
結論から先に申し上げます。いやあ、凄かった。ティーレマン、渋い、と言われますが、それが分った気がします。

16時に開演までオケのメンバーはステージに出ていない。開演のアナウンスの後、楽団員が入場。軽い拍手のなか入場してくる。チューニングは2回。終わって、舞台のの緊張度が高まったところで、ティーレマンが登場。ティーレマンを観るのは初めてだったのだが、その体格の良さに驚く。スポーツ選手のような体格の良さ。背が高くがっしりしていて、ロボットのようだ。

最初のコントラバスのピッチカートもほんの少しタクトを振るぐらい。本当にゆっくりとしたスピード。それは音符のスピードでもあるし、休符の長さでもある。第一楽章は、本当に丁寧にゆっくりとした演奏。タクトは最小限の動きしかしない。あとはティーレマンが腰をかがめて音量のニュアンスを告げている。そうした遅さに負けることなくオケはきちんと解像度の高い音楽を見せてくれる。ほとんど室内楽的なまとまりといっても言い。

第二楽章、冒頭はオーボエ、次にファゴットが加わり、クラリネットとフルートが加わって、弦楽器にバトンが渡される。この冒頭のオーボエがすばらしい。第三楽章の第一主題はかなり早めなテンポを取るのだが、第二主題はすこし遅めになる。きちんとコントロールされている感じだ。

第四楽章、第一楽章と第二楽章の主題が繰り返される。それから弦楽器のフーガがすばらしい。弦の音がとても綺麗で溶けてしまいそうなぐらい。そしてここに最大の見せ場が用意されていた。テンポは第一楽章のそれより明らかに早くなっているし、音量も徐々に高まっていく。第一楽章から第四楽章まで徐々に音量が大きくなり、テンポも加速していっているのだ。そしてコーダーの荘重な速さへ。第一楽章の主題が戻ってくるのだが、明らかに強い緊張感とともに戻ってきているのが分る。このあたりで初めて意図が分る。ティーレマンは第一楽章から第四楽章へ向かう長い坂道を登っていたのだ。

時間だが、概算で計って以下の通りである。
第一楽章:約28分
第二楽章:約23分
第三楽章:約14分
第四楽章:約27分

他の指揮者と比べてみると、以下のようなグラフになる。

ブルックナーの5番演奏比較

  • 青が第一楽章、紫が第二楽章、薄黄色が第三楽章、薄緑色が第四楽章。
  • 単位は秒。
  • 繰り返しの有無や版の違いなどで時間が変わっていることも考えらえる。
  • 今回のティーレマンのライブの長さは、時計を観た概算なので、ブレはあると思う。
  • いずれにせよ、遅い部類に入ることは確実。

驚いたのは、チェリビダッケよりも長いんじゃないか、ということ。確かに、第一楽章のあのテンポの遅さは並ではなかった。

また聞きに行きたいな、ティーレマンのブルックナー。

Classical

明日、サントリーホールで、ティーレマンがブルックナーの5番を振ります。というわけで、聴いてこようと思っています。予習は、チェリビダッケ盤、スクロヴァチェフスキ盤、ヴァント盤、サヴァリッシュ盤、ケーゲル盤で行いました。

ブルックナー:交響曲第5番
ブルックナー:交響曲第5番
  • 発売元: BMG JAPAN
  • レーベル: BMG JAPAN
  • スタジオ: BMG JAPAN
  • メーカー: BMG JAPAN
  • 価格: ¥ 1,496 (5% OFF)
  • 発売日: 2003/08/20
  • 売上ランキング: 24284
  • おすすめ度 4.0

一番、最近の気分にフィットしたのは、スクロヴァチェフスキ盤でしょうか。バランスが良く、なおかつ内声部が良く聞こえ、テンポチェンジも小気味よい感じです。

ケーゲル盤は、オケに少し乱れが感じられるのですが、気合いは一番です。第三楽章も快速球。決してきらいな演奏ではありません。

サヴァリッシュ盤は、第二楽章冒頭の木管の美しさが印象的。オーボエ(ないしはイングリッシュホルンでしょうか……)とファゴットのユニゾンが素晴らしい。

ブルックナー・チクルス
ブルックナー・チクルス
  • アーチスト: ミュンヘン・フィルハーモニー合唱団
  • 発売元: EMIミュージック・ジャパン
  • レーベル: EMIミュージック・ジャパン
  • スタジオ: EMIミュージック・ジャパン
  • メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1998/08/26
  • 売上ランキング: 8978
  • おすすめ度 5.0

チェリビダッケ盤は、今の僕の気分にはすこしフィットしない感じ。昔は大好きだったのですが。しかし、チェリビダッケの全てがきらいなわけではありません。というのも、今日、チェリビダッケが振るブルックナーの9番を聴いたのですが、とても感動しましたので。チェリビダッケが好きであることにはかわりはありません。98年に発売された、EMIのチェリビダッケブルックナーチクルス、買ったときのことを思い出します。もう10年も前のことになりますね。あのころは狂ったようにブルックナーを聴いていたものです。

ブルックナーの生演奏は3回目でしょうか。2005年にプロムシュテットがライプツィヒゲヴァントハウスを率いて来日した際に、7番を聴いています。それから、高関健さんの指揮で8番を聴いたことがありますね。意外と生演奏を聴いていない気がします。というか、交響曲を聴きに行くのは本当に久方ぶりです。

明日が楽しみです。きっと良いご報告が出来ると思います。

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ちょっと休憩。

イタリアといえば、アイスクリームの発祥地(だそうである)。ということで、ジェラートを何度か頂くことに。訪れたのは市庁舎から北に少し行った路地裏にあるお店。ガイドブックにも載っているので、日本人の旅行者の姿も。

何を食べたか? Bosco、Pesca、Limone、Cocoの四つ巴。すなわち、ベリー、桃、レモン、ココナッツ。あまりに美味しそうなので、一番大きなカップを選ぼうとしたのだが、若い女性店員に、本当に良いのか、と再確認され、上から二つめのカップに盛って貰う。少しお高いのだが、満足なり。

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今回改めて圧倒された感のあるボッティチェルリの偉大さ。
美術史には明るくない僕がまとめるのも、越権行為かとは思うのだが、羞恥を捨ててあえてまとめてみると、以下の3点なのではないだろうか?

・ 斬新さ
・ 細密さ
・ 大胆さ

そのうち斬新さについて。

ウフィツィを見終わってから、ピッティ宮殿に向かったのだが、3階にあった近代美術館で、19世紀以降の絵画を見た時に改めてボッティチェルリの偉大さに思い至ったのである。そこに展示されていた、19世紀以降の絵画は、描写性と言う観点から見ると、極めてすばらしい作品ばかりで、写真と見まがうほどであったり、あるいは、写真以上に対象物の実在を表現できている。だが、斬新さはない。ルネサンス以降の遠近法であるとか、描写性を発展させてはいるものの、質的変化を起こすまでにはいたっていない。ここから急激に質的変化を遂げたのが、ターナーであったり、印象派以降の絵画であったりするわけである。

ルネサンス期に起こった絵画の質的変化は、、ジオットに始まり、ボッティチェルリにおいて完成を見る。それは、高い描写性、ルネサンス以前の宗教との明らかな断絶、「ものから目をそらすな」(辻邦生師「春の戴冠」より)の結実なのである。ジオット以降徐々に起きていた量的変化が絵画史における稀有な質的変化、創造的進化を遂げた瞬間、それがボッティチェルリなのである。

そんなことを思いながら、ボッティチェルリの部屋で至福の時間を過していく。

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ボッティチェルリのことを書く前に、暫しの休憩。

ウフィツィのコの字の一番奥のところ、アルノ河沿いの窓からの風景。ヴァザーリの回廊が延びているのが見える。ヴェッキオ宮殿からウフィツィを経て、ヴェッキオ橋を渡りピッティ宮殿へ向かう回廊。

去年、BS−ジャパンで、ヴァザーリの回廊の特集をしていたのを観たのだが、本当にすごい。5ヶ月で作り上げてしまうヴァザーリの才能。それは芸術家としての美的センスだけではなく、数多の職工をまとめ上げるプロジェクトマネージャ的才能だと思う。

当時の番組ページが残っていたので、下記もごらんを。
http://www.bs-j.co.jp/vazari/

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次はヴィーナスの誕生。中央のヴィーナスの美しさは何にも代え難い。貝に縁取られた金色の絵の具が大胆に思える。ただ、これは20世紀に入ってからの修復によるものとも言われるけれど。

なにより感激したのは舞い散るバラの意匠。いままで漫然とネットや画集で観ていた時には気がつかなかったバラの飛散が醸し出す祝祭感におののく。日本で考えていた「ヴィーナス」はこんな絵だったのだろうか、いままで僕は何を観てきたのだろうか、と自問反問することしきり。

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Spring
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いよいよ、ウフィツィに入館です。入館にはまるで空港の手荷物検査のように、荷物にはX線がかけられ、金属探知器をくぐる。その先にチケットに印字されたバーコードをかざすとゲートがまわって入館できるのだが、商売が巧いのは、その直前に各国語のガイドブックがおいてあるところ。ここはすかさず購入。だまされたような何とも言えない気分。

とにかく三階の展示室まで上がり、ジオットの部屋をパスって、ボッティチェルリの部屋へ急ぎます。途中の部屋にあった、フィリッポ・リッピとフィリピーノ・リッピの絵に感動。素晴らしい。ここは後でもう一度観ることにして先を急ぐ。

そしてその次の部屋が、ボッティチェルリの部屋でした。少し薄暗い室内には何とも言えぬ香気が漂っている感じ。ガラスに保護された巨大な絵が二枚。一つは「春」、もう一つは「ヴィーナスの誕生」。

まずは「春」をじっくりと眺めること10分ぐらい。実際にみる「春」は、雑誌の四色刷やインターネットの画像とは全く違う。全体の構図は大きな迫力となって迫ってくるし、微細な部分をじっくり眺めると、空恐ろしいほど細密な文様が認識となって振ってくる。ヴィーナスが手からかけている、金の刺繍が施された蒼いショールの文様の緻密さには驚くばかり。神は細部に宿る、と言うけれど、まさにこの絵には神が降りてきている。間違いなく。