9月24日は辻邦生の誕生日でした。1925年生まれですので、ご存命であれば88歳です。
お気づきお通り、邦生という名前は、誕生日からとられたものです。ですので、忘れようがありませんね。
現実は、辻邦生の世界とどんどんかけ離れていきます。フランスへ留学した1950年代から60年代にかけてと、現代世界の違いと言ったら、筆舌に尽くしがたいものがあるでしょう。
現代は、理想が失われた時代、と私は思っています。あるいは、理想を外に出せない、あるいは理想は必ずしも有用ではない時代、とでもいいましょうか。
それが正しいこととも思えませんが、現代は、重要なのは真理ではなく功利である、とも思います。そうした引き裂かれる時代にあって、一度立ち止まり、振り返って足元を見るのに、辻邦生の著作ほど相応しいものはないでしょう。
天上界から眺めているであろう辻邦生の魂は、いまごろ、こんな世の中をどのような感想をもってながめているのでしょうか。
なんだか随分遠くに来てしまったように思います。私達は。
では、グーテナハト。
今日は辻邦生さんの誕生日でした。
これは画期的だ!──「ワーグナー バイロイトの魔術師」
これは、素晴らしい著作です。
バリー・ミリントンはこれまでの「ヴァーグナー大事典」や「ワーグナーの上演空間」といった、ワーグナー関連の研究書の監修をしていましたが、この「ワーグナー バイロイトの魔術師」は、最新の研究成果を取り入れた画期的なワーグナー本ですね。
ワーグナーはなにかしら悪意をもって批判される向きもあるわけですが、そうした批判を見直す良い機会をもらいました。
歴史というものは、後世の研究、もっといえば様々な意図で塗り替えられるものです。普遍的妥当性などというものは歴史には全く存在しません。全ての歴史は叙述された時点で恣意的に塗り替えられます。したがって、我々が信じている歴史的事実というものは、誰かの意図によってねじ曲げられていることが多々あるということです。
私は、それをヴェルディがリソルジメントで果たした役割を検討した際に嫌というほど思い知りました。
ワーグナーもしかり。これまで喧伝されてきたワーグナー像というものも、何かにねじ曲げられている可能性もそうでない可能性もあるということです。さらに言えば、ワーグナーほど後世に利用された作曲家もいないはず。それは音楽だけではなく、オペラのリブレットを創ったことで思想をも創ったからですね。
止まらなくなりましたので、この辺りで一旦ストップしますが、昨今つとに思う歴史的真実を考える上でも、この本は刺激的です。
まだ全てを精読したわけではありませんが、この本については近日中にきちんとまとめる予定です。
9月23日〜10月6日の東京オケ・オペラ事情
今週も東京オケ・オペラ事情をお届けします。本当は毎週がベストなんですが、ついつい隔週に。
次の二週間もこんなにもコンサートがあります。シュテファン・ドールが来日するとは知りませんでした。新国立劇場も新シーズンがスタートです。みなとみらいホールでアルプス交響曲がありますが、横浜19時はちょっと無理。。
間違いはないように確認しましたが、何かあればご指摘ください。申し訳ないですがご使用に際しては自己責任でおねがいしますね。
日 | 場所 | 演奏者 | オケ | 演目 | 開演時間 |
---|---|---|---|---|---|
9月23日(月) | 神奈川県立音楽堂 | 小崎雅弘(指揮) | 神奈川フィルハーモニー管弦楽団 |
第23回 神奈川オペラフェスティバル’13 <第1夜>オペラ・ガラコンサート 「創立30周年記念 オペラで巡る世界の旅 Vol.3 」 |
|
9月24日(火) | 神奈川県立音楽堂 |
下野竜也(指揮) 藤原道山(尺八) |
読売日本交響楽団 |
ベートーヴェン:劇音楽「シュテファン王」序曲 一柳慧:音に還る~尺八とオーケストラのための(尺八:藤原道山) 千住明:「黄金の海」(尺八:藤原道山) ブラームス:交響曲第1番 |
19:00 |
9月25日(水) | サントリーホール |
指揮オレグ・カエターニ チェロ:古川展生 |
東京都交響楽団 |
芥川也寸志: チェロとオーケストラのためのコンチェルト・オスティナート ショスタコーヴィチ: 交響曲第7番 ハ長調 op.60 「レニングラード」 |
19:00 |
9月27日(金) | NHKホール |
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン |
NHK交響楽団 |
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77 ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98 |
19:00 |
みなとみらいホール |
[指揮者]沼尻竜典 [出演]石田泰尚(Vn) 神奈川フィル合唱団 |
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 |
ストラヴィンスキー:詩篇交響曲 グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲 R.シュトラウス:アルプス交響曲 |
19:00 | |
9月28日(土) | NHKホール |
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン |
NHK交響楽団 |
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77 ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98 |
15:00 |
サントリーホール |
指揮大友直人 出演東響コーラス |
東京交響楽団 |
マクミラン:十字架上のキリストの最後の7つの言葉~合唱と弦楽オーケストラのためのカンタータ~ ホルスト:組曲「惑星」 op.32 |
18:00 | |
みなとみらいホール |
[指揮者]小林研一郎 [出演]清水和音(Pf) |
日本フィルハーモニー交響楽団 |
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 チャイコフスキー:交響曲第4番 |
18:00 | |
9月29日(日) | サントリーホール |
指揮:園田隆一郎 フィオルディリージ:吉田珠代(ソプラノ) ドラベッラ:野田ヒロ子(ソプラノ) フェッランド:櫻田亮(テノール) デスピーナ:九嶋香奈枝(ソプラノ) グリエルモ:吉川健一(バリトン) ドン・アルフォンソ:北川辰彦(バス・バリトン) ナビゲーター:朝岡聡 |
サントリーホール室内オペラ管弦楽団 | モーツァルト: オペラ『コジ・ファン・トゥッテ』 K588 | 15:00 |
みなとみらいホール | [指揮者]チョン・ミョンフン | フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団 |
ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」Op.9 ビゼー:カルメン組曲 ベルリオーズ:幻想交響曲Op.14 |
14:00 | |
ミューザ川崎シンフォニーホール |
指揮:大友直人 混声合唱:東響コーラス |
東京交響楽団 |
マクミラン:十字架上のキリストの最後の7つの言葉 ~合唱と弦楽オーケストラのためのカンタータ ホルスト:組曲「惑星」作品32 |
14:00 | |
9月30日(月) | サントリーホール |
指揮チョン・ミョンフン ピアノ:アリス=紗良・オット |
フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団 |
ラヴェル: 組曲「マ・メール・ロワ」 : ピアノ協奏曲 ト長調 サン=サーンス: 交響曲第3番 ハ短調 「オルガン付」 op.78 |
19:00 |
東京文化会館 |
指揮 オレグ・カエターニ 出演 アンリ・バルダ(Pf) |
東京都交響楽団 |
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 シューベルト:交響曲第8番 ハ長調「ザ・グレート」 |
19:00 | |
10月1日(火) | オペラパレス |
指揮:尾高忠明 メッゾソプラノ:加納悦子 バリトン:萩原 潤 合唱指揮:三澤洋史 合唱:新国立劇場合唱団 |
東京フィルハーモニー交響楽団 |
ディーリアス オペラ「村のロメオとジュリエット」より間奏曲~楽園への道~ エルガー メッゾソプラノと管弦楽のための連作歌曲集「海の絵」 ウォルトン オラトリオ「ベルシャザールの饗宴」 |
19:00 |
10月2日(水) | NHKホール |
指揮:フィリップ・オーギャン ソプラノ:エヴァ・ヨハンソン テノール:サイモン・オニール |
NHK交響楽団 |
ワーグナー/舞台神聖祭典劇「パルシファル」から 前奏曲、「役立つのはただ1つの武器」 ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲と愛の死」 ワーグナー/楽劇「神々のたそがれ」から「夜明け」 「あなたの新しい働きを」 「ジークフリートのラインの旅」 「ブリュンヒルデよ、神聖な花嫁よ」 「ジークフリートの葬送行進曲」 「ブリュンヒルデの自己犠牲」 |
19:00 |
サントリーホール | 指揮スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ | 読売日本交響楽団 |
ベルリオーズ: 劇的交響曲「ロミオとジュリエット」から ショスタコーヴィチ: 交響曲第5番 ニ短調 op.47 |
19:00 | |
10月3日(木) | オペラパレス |
指揮:ピエトロ・リッツォ 演出:アンドレアス・クリーゲンブルグ リゴレット:マルト・ヴラトーニャ ジルダ:エレナ・ゴルシュノヴァ マントヴァ公爵:ウーキュン・キム スパラフチーレ:妻屋秀和 マッダレーナ:山下牧子 モンテローネ伯爵:谷友博 |
東京フィルハーモニー交響楽団 | ヴェルディ:リゴレット | 19:00 |
東京文化会館 | 指揮 渡邊一正 | 東京フィルハーモニー交響楽団 |
ペトルーシュカ 展覧会の絵(清姫) プレリュード(沈める寺) ボレロ |
19:00 | |
10月4日(金) | 東京芸術劇場 |
指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ ピアノ:ベルント・グレムザー |
読売日本交響楽団 |
F.ショパン/ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 D.ショスタコーヴィチ/交響曲第5番 ニ短調 |
15:00 |
10月5日(土) | サントリーホール |
指揮:大友直人 ソプラノ:中嶋彰子 テノール:パヴェル・コルガティン 津軽三味線:上妻宏光 舞踏:バレエ シャンブル ウェスト 司会:高嶋政宏 |
室内アンサンブル:ザ・フィルハーモニクス |
フレデリック・ロウ: 『マイ・フェア・レディ』から序曲~「踊り明かそう!」 J.シュトラウスⅡ: オペレッタ『ウィーン気質』から「ほろ酔いの歌」 プッチーニ: オペラ『蝶々夫人』から「ある晴れた日に」 ジーツィンスキー: ウィーン、わが夢の街 ピアソラ: リベルタンゴ、他 |
18:00 |
埼玉会館 大ホール |
指揮:秋山和慶 ピアノ:伊藤 恵 |
NHK交響楽団 |
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第20番 二短調 K.466 ベルリオーズ/幻想交響曲 作品14 |
16:00 | |
東京芸術劇場 | 小林研一郎(Cond) 仲道郁代(Pf) | 日本フィルハーモニー交響楽団 |
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第5番「皇帝」 ドヴォルジャーク/交響曲第9番「新世界より」 |
14:00 | |
10月6日(日) | オペラパレス |
指揮:ピエトロ・リッツォ 演出:アンドレアス・クリーゲンブルグ リゴレット:マルト・ヴラトーニャ ジルダ:エレナ・ゴルシュノヴァ マントヴァ公爵:ウーキュン・キム スパラフチーレ:妻屋秀和 マッダレーナ:山下牧子 モンテローネ伯爵:谷友博 |
東京フィルハーモニー交響楽団 | ヴェルディ:リゴレット | 14:00 |
ミューザ川崎シンフォニーホール |
指揮:マルティン・ジークハルト 独奏:アンサンブル・ウィーン=ベルリン -オーボエ:ハンスイェルク・シェレンベルガー -クラリネット:ノルベルト・トイブル -ファゴット:リヒャルト・ガラー -ホルン:シュテファン・ドール |
東京交響楽団 |
モーツァルト:ホルン協奏曲第4番 変ホ長調 K.495(ホルン:シュテファン・ドール) モーツァルト:協奏交響曲K.297b (オーボエ:ハンスイェルク・シェレンベルガー、クラリネット:ノルベルト・トイブル、ファゴット:リヒャルト・ガラー、ホルン:シュテファン・ドール) ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98 |
14:00 |
独仏間のかつての深淵 その一
《ローエングリン》を観ると、フランスへの敵愾心といったドイツのナショナリズムを感じさせる歌詞にきづきます。伝統的にドイツとフランスは仲が悪かった、という歴史知識はありますが、その源流については私も詳しくは知りませんでした。
ですが、その理由を知る機会に恵まれました。
今読んでいるミリントンのワーグナー関連本にその答えが載っていました。
その答えを読んで、積年の疑問が解消したという爽快な気分を感じましたが、同時に私は暗澹たる思いを禁じ得ませんでした。
続く
お月見中。
月見の季節ですね。今日は十五夜。旧暦8月15日です。どうやら織田信長が稲葉山城を岐阜城に改名した日だそうです。
というわけで、先ほど撮ったお月様。私の好みに現像しちゃいました。
今日はシュトラウスのホルン協奏曲2曲とオーボエ協奏曲を。しかし、シュトラウスは奥深い。まだまだわかってないです。
それから、またお仕事をいただけそうで、嬉しい限り。頑張りますよ。というわけで、バルトークの勉強を開始。その前に、ワーグナーですが。
明日でさしあたりウィークデーは終了。あともう一息です。
今日は短くグーテナハト。
過日の夕暮れ。あるいはブロムシュテットのアルプス交響曲
月曜日の夕暮れの様子。台風が去った途端に季節は秋に変わりましたね。夜や朝の涼しさといったら格別です。秋大好き。ずーっと秋だといいんですが。
この数ヶ月、写真をあえて絶っていましたが、さすがにこの夕暮れをみたら、撮らない訳にはいかないと思いました。
なんだかんだ言って、今日はブロムシュテットが振る《アルプス交響曲》を聴き倒しました。
このアルバム、音質最高峰なはずなんですが、iPodで聞くとなんだかざらついてしまいます。最近耳が肥えてしまいまったく困りました。とりあえず取り込み直しましょうか。
以前にも書いたかもしれませんが、小さいころの私はこの手の標題音楽が大の苦手でした。なんで、音楽でそんな「卑近」なことを表現するのか。音楽はもっと深遠でなければならない、とエラソーに思っていたような記憶があります。だからブラームス大好きでした。今も好きですけど。
今はそんなこと思うわけもなく、音楽の中に映像を感じるのが楽しくて仕方がなくなりました。オペラを聴き始めたからということもあるんでしょう。
シュトラウスならこんな夕暮れにどんな曲をつけますかね? あ、Im Abendrotって曲がすでにありましたね。
では、グーテナハト。
若きリーダーはカーク船長に学ぼう
はじめに
先日、スタート・レック イントゥー・ザ・ダークネスを見てきました。
スタートレック
お恥ずかしいことに、この歳になってはじめてスタートレックを見たことになります。もちろん、カーク船長やスポック、USSエンタープライズについては名前だけは知っていましたけれど。
色々調べていると、どうやら、スター・トレックの元ネタは、ホンブロワーシリーズから来ているのですね。私はホンブロワーシリーズを高校時代に愛読していましたし、2002年ごろにドラマ化されたものも見ています。
おそらくは、当初のスタートレックはこのようなアクションものではなかったようですが、このご時世ですので、テンポのよいアクション映画に仕上がっていました。
TVドラマシリーズがオリジナルですが、そのドラマシリーズの前史を壮大に描いたのが本作です。悪役ベネディクト・カンバーバッチが異才っぷりを大いに見せてくれますよ。
絶叫の3D
特筆すべきは、3Dであったということです。
ここまで遠近感がしっかりでているとは思いませんでした。
そもそも、映画の前のサンプル映像で、目の前にオブジェクトが現れたのには驚きました。目と鼻の先まで映像が迫ってきますからね。驚きました。
もちろん本編も素晴らしく、飛んでくる岩に思わず身をかがめましたから。
もう2Dは見られないかも。
若きリーダはカーク船長に学ぼう
あとは、伝説的登場人物であるカーク船長ですね。ホーンブロワーのように、若くしてキャプテンに抜擢されますので、それはもういろいろと苦労します。ホーンブロワーの場合、先輩が副長ですし、カーク船長も、目上の人物を使っていかなくてはならない。そういう苦労のようなもんもが端々にでていて、見ていて面白かったです。
まあ、どんな組織も人間相手なので共通するものは多々有ります。若きリーダーはカーク船長をみて研究するといいかも。
興味深いシーン
宿敵カーンの協力を求めるシーンでこんな面白いやりとりが。
カーク船長
「君の部下の安全を私が保証する」
カーン
「自分の部下の安全を守れない男が私の部下の安全を保証するのか」
なるほど。。。
終わりに
トレッキー(スタートレックファン)になるかどうか思案中です。なりたいんですが、映像見る暇があるかどうか。
では、グーテナハト。
ラッセル「エーリヒ・クライバー 信念の指揮者その生涯」アルファベータ
何度か紹介していますが、土曜日に発売された図書新聞に書評が出ましたので、改めて紹介します。
エーリヒ・クライバーの評伝がアルファベータから発売されています。
図書新聞に書評がでていますが、こちらの書店で販売しています。是非ご入手ください。
青年期まで
エーリヒ・クライバーは、育ちはプラハなどですが、オーストリア帝国で育ったことには変わりありません。ウィーンっ子と言ってもいいかもしれません。シュトラウス一家のワルツを好んだのもそういう理由なのかもしれません。
書評には書ききれませんでしたが、音楽に目覚めたあとの経歴はずいぶんカッコいいです。才能というのはこういうものなのですね、と思います。
例えば、ダルムシュタットの副指揮者時代には、《ばらの騎士》を初見で振ったという伝説をもっています。実は、本来の指揮者が病気に倒れたため、一夜漬けで準備してゲネプロをしたということのようです。リヒャルト・シュトラウスもそのことを覚えていて、クライバーのことを「私の《ばらの騎士》を初見でこなしたのはあの男だよ!」と言って喜んでいたらしいです。カッコよすぎです。
ベルリンの黄金時代
その後、デュッセルドルフを経て、ベルリン国立歌劇場の音楽監督になりますが、そこで活躍っぷりが凄いのですね。エーリヒ・クライバーが音楽史に残した功績というのは、いまでこそはベルクの《ヴォツェック》を初演したということで一括りにされてしまいます。
ですが、その他にも、たとえばダリウス・ミヨーに《クリストフ・コロンボ》というオペラがあるんですが、そのオペラをベルリンで初演して大成功させています。また、ヤナーチェクのオペラを取り上げたりと、シリングスを取り上げたりと、現代音楽を随分取り上げていたようです。
《クリストフ・コロンボ》の成功はフランス議会で問題になったそうですよ。なんで、フランスで初演しなかったのだ、という議論だったようです。
この評伝でベルクの妻のヘレーネも取材を受けているのも時代を感じさせます。ヘレーネ夫人に言わせると、ベルクとエーリヒ・クライバーの仲は「まるで男の子が二人いるみたい」ということだそうです。きっと、無邪気に仲良く難しい話を色々していたんでしょう。そのベルクからの書簡もいくつか取り上げられているのも興味深いです。ベルクも経済的に大変だったのだなあ、などと思うところが多々ありました。
それから、本当かどうかはわかりませんが、先日書いた運命の失神なども、興味深いエピソードでした。
ベルリンを去ったあと
ナチスと対立して、ベルリン国立歌劇場を去ったあとは、南米で活躍というか、苦労を重ねたようです。最近、コロン・リングが話題になっていますが、ブエノスアイレスのコロン歌劇場でも随分振ったようです。
戦後は、ヨーロッパに戻ってきて、ベルリン国立歌劇場の音楽監督にもう一度なりますが、当局と対立して、退任せざるを得なくなります。当局の干渉によるものなのですが、その理由も、ちょっとおどろくような理由でした。
ただ、どうも本当はウィーン国立歌劇場の音楽監督になりたいという気持ちが終生あったのではないか、と私は考えていますし、そうした内容の示唆をいくつか見つけることができます。
ですが、戦後のウィーンは、ベーム、カラヤンですからね。クライバーの入る余地はなかったのかもしれません。カラヤンと違って、どうも政治的な動きというこのをクライバーはあまりしなかったようで、そういう意味では芸術一筋な人だったのだと思います。
息子のカルロスのこと
ちなみに、カルロス・クライバーの幼少期のことは、いくらか出てきます。おもしろいエピソードでもいくつか見つけることができます。ただ、あとがきに書かれているように、そこまでたくさん書かれているわけではありません。残念ですが、カルロス・クライバーの初めての指揮者デビューで、偽名を使っていたエピソードも出てきませんでした(逆に言うと、本当にそうした事実があったのか、という疑問はありますね)。
終わりに
この本は、クラシックが最も華やいでいた最後の時代である戦間期の空気がよく読める良書で、随分勉強になります。お勧めです。
この三連休は天気は悪かったものの、随分いろいろなことが出来ました。まだしたりませんけれど。あすからまた戦場へGO。
それではグーテナハト。
ジョージ・バーナード・ショーのワーグナー本、読書中
えーっと、読むのが遅すぎましたね。
ジョージ・バーナード・ショーの手による《ニーベルングの指環》の解説本(?)です。
ジョージ・バーナード・ショーは、御存知の通り社会主義に同情的で、フェビアン協会の会員でした。ですので、《ニーベルングの指環》を資本主義批判として読み解いています。
こうした「読み替え」は、パトリス・シェローのバイロイトでの読み替えなどが知られていて、特段おどろくべきことではありません。というより、この本がその読替えの元ネタである、というところなのでしょう。
これまで読んでなかったのが失敗でした。重要な資料なので、引き続き読みます。
明日は家にこもって仕事?
取り急ぎグーテナハト。
フランス式論理と典雅──読売日響サントリー定期
本日早帰りデーのため、早帰りを実践しました。会社帰りにサントリーホールで読売日本交響楽団の定期公演を聞いてきました。
モーツァルト 交響曲第29番イ長調K201
モーツァルト 協奏交響曲変ホ長調K364
メンデルスゾーン 交響曲第3番イ短調作品56《スコットランド》
最初のモーツァルト。こういうのを典雅というのでしょう、という感じ。オケの音も薫り立つようでした。席は前から三列目下手側。カンブルランの横顔が見える位置でした。まるで指揮台でステップを踏んで踊っているように見えました。
二曲目の協奏交響曲は、ドイツ名門オケでコンマスあるいは首席奏者を務める二人の日本人女性。ヴァイオリンは萩原尚子さんで、ケルンWDR交響楽団のコンマス。ビオラはベルリン・フィルの首席ビオラ奏者の清水直子さん。そういえば、ふたりともなおこさんなんですね。萩原さんのヴァイオリンは硬く引き締まった音でした。清水さんの方の音はしなやかに思いました。
ここまでで一時間過ぎ。二曲とも充実していましたので、随分とお腹いっぱいな感じで、これで終わりでもいいかも、などと。
ですが、次がすごかったのです。
《スコットランド》は、実演を聴くのは初めて。というか、私が実演に触れられるように鳴ったのは会社が都内になってからが主なので、まあ当たり前なんですが、この曲は小さい頃によく聴いていたので、ほとんど覚えていて、なんだか懐かしい気分でした。
カンブルランの指揮は、第一楽章で、第二主題で突然テンポを上げたりと、当初は少し戸惑いもありました。が、そのうちにだんだんと引き込まれて言った感があります。テンポは、確かに変えるのですが、旋律の途中でもたらせたりというようなことはほとんどなく、おおむねインテンポで進めていました。特筆すべきはむしろダイナミズムで、パートごとの音量調整を細かくやることで曲の表情を引き出していました。
この曲、第二楽章は民謡風というか舞曲風なんですが、なんで第二楽章なんですかね。普通はこのたぐいは第三楽章なんですが。まあ、それはいいとして、クラリネットの旋律になぜかころりとやられてしまって、落涙しました。木管が素敵でした。
カンブルランの指揮は、この辺になると随分とわかってきました。まずはリズムががっしりしていて、ほとんどぶれません。これはインテンポであるからそう思えたのでしょう。それでいて、ダイナミズムで華麗な音を引き出しているのです。これは本当に驚きでした。
フランスといえば、軽やかで華やかなイメージがありながらもロジックの国です。論理的でありながら典雅であるという、辻邦生の小説のような世界です。
聴きながら、ゴシック聖堂のような堅牢でありながら、細部の美しさを保っている構造体を観ているようでした。
で、カンブルランの出身のアミアン大聖堂を思い出したというわけ。単純は偉大なり。なんて。
といわけで、早帰りを利用して行ってきた次第です。
東京オペラ・オケ事情を作ったのは、私が、いつどこで何を演るのかを知りたかったということがあります。自分のためにも作ってよかった、などと勝手に思ってます。
本当は、東京芸術劇場のホールオペラにも行きたかったのですが、散々迷ってサントリーホールにしてしまいました。仕事が忙しかったので、モーツァルトを聴きたかったから、というのが大きな理由でしたが、目的以上に満足した演奏会でした。
週末は本職を頑張ります。
では、グーテナハト。