右側においてある「辻邦生著作目録」ですが、リンク切れになっていましたので修正しました。原因はMuseum::Shushi Archives Divisionないの著作目録のページのURLが誤って設定されていたためでした。申し訳ありませんでした。
(気がついて良かったです)
辻邦生著作目録がリンク切れでした
アイラ・レヴィン「死の接吻」
死の接吻 アイラ・レヴィン (2000) 早川書房 |
またよみました。アイラ・レヴィンの「死の接吻」。前回読んだ「ローズマリーの赤ちゃん」は衝撃的な幕切れを何度も読み返しましたが、今回もまたミステリの醍醐味を堪能させてくれました。
また文字の色変えましょうね。
最初に驚いたのが、ドロシィの章では、男の名前が明かされていなかったこと。そのことに気づいたのが、第二部エレンになってから。エレンがドロシィ殺しの犯人=ドロシィの彼氏を見つけようとするときに、容疑者二人が名前と共に浮かび上がってくるのだが、そのときになって、僕は彼氏の名前が明かされていないことに気づいたのですよ。文章の中では「彼」という三人称で語られているだけだったのです。そこでまず激烈なパンチを受けました。
次のパンチは、エレンの彼氏のバッドが、ドロシィ殺しの犯人=ドロシィの彼氏であったということ。それも強烈な登場の仕方。パウエルが、自分の部屋でドロシィの彼氏の住所を突き止めようとしたそのとき、アノニムな男として登場して、パウエルを射殺、それからエレンの前に姿を見せる。エレンは自分の彼氏が来たので安心する。っていうか、読んでる方から見たら、エレンの彼氏が、ドロシィの彼氏と同一人物だったなんて思わないから、一杯どころか何杯も食わされた気分でメタメタ。
マリオンへのバッドの近づき方とかは、種明かしされているので、これ以降はそうそう驚くことはなかったけれど、バッドの最後は印象的。指輪物語のゴクリ(ゴラム)の死に方に似ているなあ、なんて。
それから、ゴードン・ガントはどうしてあそこまでして真実を知りたかったんだろうか、と考えてみるのも面白いかもしれません。単なる第三者だというのに。まあ、彼が居なければマリオンもバッドの餌食になっていたのでプロットしてはひねりがないのかな、というところでしょうか。少し考えてみなければなりませんね。
というわけで、この本もお薦めです。
ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
早川書房 (1977/03)
売り上げランキング: 26968
アイラ・レヴィン「ローズマリーの赤ちゃん」
ローズマリーの赤ちゃん アイラ・レヴィン (1972/01) 早川書房 |
またヤバイ本を読んでしまった。アイラ・レヴィンの「ローズマリーの赤ちゃん」。ある本で勧められていたので読んでみたのですが、あまりに面白く、興味深く、吸い込まれるようにして読んでしまいました。
ネタバレになるかもしれませんので、フォントの色を変えます。ともかく衝撃的。
- 計算されつしているなあ、本当に。夫のガイが俳優で、芝居をして、入居住宅を変えるところから、ガイの芝居に結局はだまされ続けるローズマリー。
- ローズマリーが眠らされて悪魔と交わるシーンは、ローズマリーの夢と言うことになっているんだけれど、最初読んだときは、よくもこんな象徴的な夢を書けるな、と感心していたのだけれど、それが本当にあったことだと分かってゾッとする。思わず、くだんの部分を読み返して再度ゾッとする。しかし、この部分、「ダ・ヴィンチ・コード」の一場面と似ているな……。
- しかも、その日、ローマ法王がニューヨークを訪れていると言う設定。できすぎている。
- ローズマリーがカトリックの信仰から離れた女ということも象徴的。最後に「神は死んだ」と叫ぶあたり、現代を象徴している。
- でも、悪魔信仰が悪かと言われれば、そうではないかもしれない。悪魔といっても、反キリスト教的で異教的なものを指す場合もあるから。
- これは現代批判なんだろうな、と。悪しき相対主義に陥る現代社会への警鐘でもあるのかな、と。
- キリスト教(カトリック)が第二ヴァチカン公会議以降、他宗教を認めるなど融和的な方向に向いたことで、ある種の相対主義に陥り、力を失った。そこにあるのは、道徳無き世の中(異論もあると思うけれど)。
- それで、ニューヨークを訪れるローマ法王の名はパウロ。これは、パウロ六世(在位1963〜1978)のことを指していると思われる。彼は第二ヴァチカン公会議の遂行者。実に象徴的。
- しかし、最後のシーン、強烈。赤ちゃんにかぎ爪が生えていて、それで身体をひっかかないために手袋をかぶせている、とか、普通思いつかないよなあ。
リチャード・アダムズ「ウォーターシップ・ダウンのウサギたち」
- ウォーターシップ・ダウンのウサギたち〈上〉
-
- 発売元: 評論社
- レーベル: 評論社
- スタジオ: 評論社
- メーカー: 評論社
- 価格: ¥ 1,890
- 発売日: 2006/09
- 売上ランキング: 20854
- おすすめ度
- ウォーターシップ・ダウンのウサギたち〈下〉
-
- 発売元: 評論社
- レーベル: 評論社
- スタジオ: 評論社
- メーカー: 評論社
- 価格: ¥ 1,890
- 発売日: 2006/09
- 売上ランキング: 8354
- ウォーターシップダウンのうさぎたち コレクターズ・エディション
-
- 発売元: ジェネオン エンタテインメント
- レーベル: ジェネオン エンタテインメント
- スタジオ: ジェネオン エンタテインメント
- メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 価格: ¥ 3,990
- 発売日: 2006/07/21
- 売上ランキング: 16643
- おすすめ度
「ウォーターシップ・ダウンのウサギたち」を読みました。
- 小学生時代に読んでおきたかったなあ、と真っ先に思う。残念。
- 各章の冒頭に記される引用が的確で味わい深い。
- 作者は否定しているようだが、現実世界のメタファーに富んだ作品に読むことができる。ヘイズルの泰然とした振舞、ピグウィグの勇気と剛気、ウードワードの権力欲など。人間世界の縮図を見ているようで、面白い。ヘイズルのような優れたリーダの元で働いてみたいものだ。ないしは、ヘイズルのようなリーダーになりたいものだ。
- 細緻な描写や説明もすぐれていて、矛盾点は見つからない。「細部に神は宿る」という言葉がぴったり当てはまる。
- 冒頭部から物語はどんどん展開していく。章立てはそれぞれ短く、テーマが細分化されている。だらだらとストーリーが展開していくのではなく、リズムをもってきびきびと展開していくのでとても読みやすい。
- それにしても、ウサギの視点で、舗装された道路、自動車、鉄道、橋、舟などを描写するのは骨が折れるだろうな、と思う。そして、どれもきちんと描写されていて舌を巻く。
- 物語はこれぐらい面白くないといけないし、完成度が高くないといけないな、と思う。
- DVDも出ている。機会があったら是非見てみたい。
- この本は、本当に読んで良かった。
キング「回想のビュイック8」
新潮社 (2005/08)
売り上げランキング: 197876
新潮社 (2005/08)
売り上げランキング: 196930
読み終わりました。以下感想。
- 以前も書きましたが、謎のクルマ、をモティーフにしてよくぞここまで引っ張ったなあ、というのが第一印象。その筆力に驚嘆するばかり。
- しかし、謎は最後まで謎のままなのは残念。余韻はあるのですが、もうすこし本当のことが知りたかったです。
- D分署という閉鎖された空間で大人たちのなかで秘密にされていた謎を、青年(少年というには歳を取っていると思うのだが)が徐々に知っていくというあたり、青年が徐々に世間ずれしていくメタファーになっているのかな、と思ったりする。
- 凄惨な描写を読んでいたら、清廉な風景に逃げ込みたくなって、なぜか、かつて赴いた北欧の風景が思い浮かびました。
すこしホラー/ミステリーに疲れたので、次はもうすこし心休まる本を読もうと思っています。
スティーブン・キング「回想のビュイック8」
回想のビュイック8〈上〉 スティーヴン キング (2005/08) 新潮社 |
今日から読み始めたのですが、これで物語を展開するのはどだい無理じゃないか? とおもうような設定でここまでぐいぐいと物語を引っ張ることのできるキング氏の才能に舌を巻いています。さすがです。うーん、結末が気になってしかたがないです。どこに落としどころを持ってくるんだろう……。
辻邦生/ラジオドラマ「西行花伝」
(2006/06)
エニー
この商品の詳細を見る
会社の帰りにラジオドラマ版西行花伝を聞きました。原作の幽玄な雰囲気をうまく表現していると思います。
今日は最初の小一時間ほどを聞いたのですが、特に印象的だったのは待賢門院との感動的な出会いの場面。西行役の竹本住大夫さんの語りの静かな迫力にただただ舌を巻くばかり。微妙に関西方言のイントネーションが混ざっていて、ああ、これは本当に西行が語っているのだ、と思わずにはいられませんでした。
その後、西行と待賢門院が二人きりになって桜を見るところでいったん今日はヘッドホンを置きました。CD四枚組でので、まだ先は長いようです。続きは木曜日に引き続き聞く予定。
辻邦生
澤田ふじ子「拷問蔵」
拷問蔵―公事宿事件書留帳〈3〉 澤田 ふじ子 (2001/02) 幻冬舎 |
公事宿事件書留帳シリーズ第3巻「拷問蔵」です。
NHKのドラマ「はんなり菊太郎」は先週終ってしまいましたが、本は5巻までありますからね。まだまだ楽しめそうです。澤田ふじ子さん、文章も巧いですし、構成も巧みです。主人公の田村菊太郎さん、相変わらずスーパーヒーロー的立居振舞で、読者の心を鷲掴みです。前にも書いたと思いますが、女性だからこそ書ける理想の男性、だと思います。時代考証や、時折あらわれる蘊蓄もばっちり。興味をそそられるものばかり。隙がありません。
長編読んでみたものの……。
会社帰りに途中駅のカフェで読みかけの本を読みました。とても面白い本。ストーリー展開が妙で、ページをめくる速度がついつい速くなってしまいます。
それで、読み終わりました。分厚い上下巻本でしたので、読み応えも十分。 よくぞここまでの長編を完成させたなあ、という大きな感歎。
しかし、なぜかその後襲ってくる虚無感。なんなんだ、これは! と言う感じ。
確かにストーリー運びは巧いし、史実を紹介しながら展開していくので、興味をひかずにはおられない。描いているテーマも大きいもの。理想を求めて変革しようとする若者達の辛苦に満ちた試みとその挫折が描かれています。 しかし、何かが物足りない。
そう自問自答しながら、雨に吹きさらされて帰ってきました。
辻邦生さんの文学も、理想と現実の隔絶や、それを乗り越えようとする意志、そして乗り越えられない現実を突きつけると言う感じで、構造としては似ているのですが……。
やはり、辻文学にくらべると、描写にムラがありました。また、現実と明らかに乖離している部分、誤っている部分が分かってしまうのでした。
これだけの長さのものを完成させるのは並大抵ではないです。しかし、それを一分の隙もなく完成させるのはもっと難しい。そう言う意味では、辻文学はより完成に近づいているなあ、とあらためて思うのでした。