Tsuji Kunio

写真 1 - 2015-01-21

こちら、Kindleではなく、リアルの「夏の海の色」です。1992年4月に出された文庫版です。23年前。さすがにくたびれています。

で、相変わらず、この「夏の海の色」を読み続けています。というか、季節外れですね。冬なのに。

今日はその中に収められた短篇「彩られた雲」が気に入りました。


舞台は戦前の東京

足の悪い美しい少女に恋心を抱く主人公。で、その少女もやはり主人公と少しばかり親しくなる。その家は金持ちなのだ。

だが、向かいに住むとある兄妹は、その少女を冷たい子で、人を憎み、嫉み、妬いていて、冷たい仕打ちをするのだという。

妹はこういう。

「冷たくなかったら金持ちにはなれません」

「あの人の家は高利貸だからです。あの人の家は冷酷じゃなければお金が入らないようになっているのです」

その後、この美しい少女一家は、主人公が夏休みで帰省している間に引っ越してしまう。人づてに聴くと実に親切そうな両親で、「冷酷」というふうではなかった、と聴く。主人公は、妹の言葉を少し信じてしまったことを後悔する。


といった、あらすじ。

ここまでいくと、まあよくある話なんですが、面白いのがこの主人公が、まだ中学生で、思考に浅薄な部分があって、寄宿していた叔父の所得を考えられていないという設定があったり、その美しい少女に舞い上がっている場面がいくつも書かれているわけです。

なので、きっとこの後悔も、まちがった後悔なんでしょうね。

また兄妹の父親が、共産主義者で国外亡命しているという背景も描かれています。そうしたことも考えると一層面白いものが感じられます。

にしても思うことは、理性的なものとか正しいものというのは、現実世界においては、ほとんどの場合役に立たないのではないか。そうしたことをなにか感じさせる挿話でもあります。

というわけで、グーテナハトです。

Tsuji Kunio

夏の海の色 ある生涯の七つの場所2 (中公文庫)
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最近、毎日辻邦生作品を読むことにしています。本を持ち運ぶのは辛い時もあるのですが、スマホのKindleに入っていますので、その気になれば絶対に読める、というわけです。

で、今日「夏の海の色」を読みました。この短編集そのものではなく、所収されている短篇の「夏の海の色」の方ですが、いや、これは、あまりに見事すぎて、しばし動けないぐらいでした。

もう何度も読んでいるんですが、本当に緊密で見事な美空間で、我を忘れます。

夏の日差しに照らされる城下町と、そこに流れる今とは違う時間。城下町らしい、侍、あるいは軍人といった日本の古い感覚。中学生の淡い思いと、子を亡くした親の哀しみ。

短編映画か単発ドラマになります。絶対に。

どなたかドラマ化しないかな、などと。

こちらにあらすじがかいてあります。

この物語の城下町は松本がモデルだと言われています。また海辺の町は私は勝手に湯河原だと想像しています。
(湯河原だと想像している理由はこちらにも

これは私小説ではありません。が、色濃く辻邦生の体験、おそらくは松本での旧制高校時代の記憶とか、湯河原に疎開した時の記憶などが反映しています。

しばし時間を忘れたひとときでした。

ではグーテナハトです。

Miscellaneous

なにか、ものごとが皮膜だけのように思え、その裏側には光なのか闇なのか、いずれかわからないものがあるのだが、それは決して分かることがないのである、という直観。

どうも、考え過ぎは良くないことはわかるのだが、考えすぎてしまうという問題。

主知主義という言葉がありますが、それって、どうなの? 本当にいいことなの?みたいなことを、大学のゼミで教授にいわれ、ああ、そういう考え方もあるんだ、と驚いたことがあります。

知りすぎ考えすぎは生活の質を下げる場合もありますね。

初めての鍋。風邪治らないのでこちらで身体をあたためて、もう寝ます。

考え過ぎは体によくありません。この十数年で初めての鍋。風邪が治らないので、こちらで体をあたためました体を冷やすと免疫能力がなくなります。身体を冷やしてはいけません!

では早々におやすみなさい。グーテナハトです。

追伸

最近聞いているこれ。フォーレのピアノ曲集。最高です。どこか図書館で借りた音源なのですが、おそらくこちらです。リラックス。あ、リラックスして音楽聞いて良いんでしたっけ。。

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Classical

週末は今日でおしまい。なんだかあっという間に過ぎ去ってしまいました。

年末に録画していた2014年の音楽ハイライトを見ていました。昨年なくなったロリン・マゼールの追悼コーナーもあって、2012年にN響を振った《ボレロ》が抜粋ですがオンエアされてました。

解説の広瀬大介さんもおっしゃってましたが、ボレロはそうそう指揮者によって差異が出にくい曲だそうです。

が、鬼才マゼールはやはり違いました。最後の転調の場所でテンポを一瞬、かなり緩めて、またテンポを戻すのですね。あれ、ブレーキ踏まれた感があります。で、その後もテンポはぐちゃぐちゃに。ここまでエキセントリックなことをやっちゃって、あれ、これって、でもなんだかスゴイ、と思わせるのは、相当だと思いました。

先日買ったマゼールボックスでも《ボレロ》をやっていますが、これもN響の録画ほどではないですが、そういう仕掛けがありました。

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マゼール、最高です。やはり2012年に聴きに行っておくべきだったなあ。

ではグーテナハトです。

Tsuji Kunio

73年三羽烏という言葉があるそうです。辻邦生、加賀乙彦、小川国夫の三名をさしてこういうのだそうですが、この方々は1973年に純文学界で活躍したということで、辻邦生「背教者ユリアヌス」、加賀乙彦「帰らざる夏」、小川国夫「或る聖書」が話題になったからだそうです。

この言葉はネット上ではウィキペディアに存在するのみ。それ以外ではあまりさしたる情報が出てきません。

もう一つは小谷野敦さんの「現代文学論争」のフォニイ論争の項目において取り上げられています。

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というわけで、フォニイ論争のことを考えなければなりません。少し気が重いですが、いつかは考えなければなりませんので。

Tsuji Kunio

Photo

相変わらず人参畑。太陽の光がバターのようです。

まいどすいません。「春の風駆けて」を読んでいます。

「真晝の海への旅」って、映画化が計画されていたんですね? 実際にどうなったのか、調べていますが、どうもよくわかりません。「北の岬」が映画化されているのは有名ですが。

黒澤明と仕事をしていたプロデューサの松江陽一氏が映画化しようという話があって、どうやらイタリアの若手監督を起用する、というはなしになっていたようです。そうか、日本語ではない映画化、ですか。もう少し調べてみようと思います。

「真晝の海への旅」、一度読んだきりです。それも20年ほど前に。私の友人がこの本を読んで「これはマンだ!」と言っていたのを記憶しています。

ちょっとこちらも再読しないと。

では取り急ぎ。

Tsuji Kunio

春の風駆けて―パリの時
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うーむ、本当に赤裸々な感じ。

社会主義が実現するには人間が変質しなければならない。貨幣が鋳直されるように、鋳直される必要がある。それはドストエフスキーの小説の中の人物が願望するような意味で、人間が改造される必要がある。人間が一歩神に近くならなければならないのだ。

辻邦生「春の風駆けて」より

辻邦生は、当時の知識人なら誰しもそうだったように、社会主義へのなにかしらの共感なようなものがあったと思います。それは「ある生涯の七つの場所」において、色濃く現れているように思います。人民戦線の物語となればそうなるでしょう。

ともかく、ここに書いてあることに従うと、社会主義は無理だったということなんでしょうね。

私が読んでいるのは1981年3月のころの様子です。ちょうど、ジスカール=デスタンとミッテランの大統領選挙が行われていた時で、時節柄、政治的な考察も随分と掲載されています。私、テレビで、学生が「ミッテラン」を連呼する映像を見ましたが、いまでもそれを覚えております。

では、グーテナハトです。

Photo

It's me.

月並みな写真。先日撮りました。午後3時ともなるとこれぐらい太陽は傾きます。仕事をしていると、なかなか太陽の光を浴びる機会がありません。冬場は、その太陽も直ぐに沈んでしまうのです。

ちなみに、冬場の正午の太陽の光の色は、夏場の夕方の太陽の光と同じです。太陽高度によって、太陽光の色味は変わりますので。がゆえに、こういうことが起きるのでしょう。正午頃に外に出て、夕方になったなあ、と思うと、本当にそんな気分になってきます。

それにしても、新しいiPhoneのカメラは優秀です。センサが小さいのでボケ味などは望めませんが、画像としては随分美しく、Instagramなどを使うと、いろいろな画像処理ができて、さまざまな表現を試すことができます。

今日も辻邦生三昧でした。「春の風駆けて」はやはり刺激的です。

では短くグーテナハトです。

Tsuji Kunio

春の風駆けて―パリの時
辻 邦生
中央公論社
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いや、この「春の風駆けて」は、赤裸々、ということを昨日書きましたが、以下の様な文章も、あの辻先生をして、と思わせる切迫感があります。

ぼくは才能の存在など信じないと行った。「それが好きかどうかということだけじゃありませんか?好きだったら、朝から晩までそれをやるんです。それも一日二日ではなく、毎日毎日、生きている限り、二十年も三十年も。現代のような時代にものを創るということは、それについて何を言われようと、何を考えようと、自分の意見にすら摑まらずにその一歩先を走ることじゃありませんか」

ぼくはJ子さんを慰めるというより、明らかに自分を弁護している。だが、これ以外に何を言えよう。

辻邦生「春の風駆けて」73ページ

いやまあ、もうこういうことを仰るのですが、これは別に小説家に限ったことではないのでしょうね。一般的な物書きだろうが、プログラマだろうが、スポーツ選手だろうが、ピアニストだろうが、こういうことなんでしょう。才能なんてものはなく、ただひたすら続けるんですか、という感じ。

そういえば、辻邦生の言葉「ピアニストがピアノを弾くように文章を書け」という言葉をさらに思い出します。

この引用した部分、10年以上前に読みました、当時も線を引いてあって、栞まで挟んでありました。さすがに印象的な場所です。

というわけで、今日もグーテナハトです。

Tsuji Kunio

パリのデモ行進のこと

パリで起きた、テロ事件の件。風刺週刊誌「シャルリ・エブド」の襲撃事件。それを受けたデモが日曜日にありました。フランス全土で370万人が参加したとのことです。

このデモの映像を検索してみたところ、以下のリンク先の画像が出てきました。

http://www.jpost.com/Operation-Protective-Edge/New-anti-israeli-demo-in-Paris-despite-government-ban-368992

振られている旗が、パレスチナの旗で、あれれ、と思ったのですが、記事を読んでみると、昨年7月の反イスラエルのデモ行進でした。日曜日のデモと同じく共和国広場からバスティーユへ向けて行進したそうで、警官隊と衝突がおこり70名が逮捕されたとのことです。

エルサレム・ポストの記事ですので、なにかしらのバイアスがかかっている可能性もありますけれど。

で、思ったのは、性格が異なるデモが同じ所で発生する、というところに、なにかフランスの奥行きのようなものを感じました。

ちょうど、昨日から手に取った辻邦生「春の風駆けて」の中に、1980年にミッテラン大統領が当選した時の様子が書かれています。これは「雲の宴」の冒頭にも取り入れられているものです。革命の国フランスらしいものだと思います。

フランス国内での捉えられかた

さて、今回の「シャルリ・エブド」への襲撃事件がフランス国内でどのように捉えられているのかは、以下のリンク先が参考になりました。

フランスの新聞社 シャルリー・エブド襲撃事件について

シャルリ・エブドは、左翼系の風刺雑誌で、もともとは「アラキリ」という名前だったそうです。これ、「腹切」で、切腹のことだそうです。

どうやら、リンク先の解説によれば、過激な風刺画であったとしても、それをあえてやっていて、これまでもなんども襲撃されたりしているわけです。ですが、そうした風刺画は「表現の自由」を守るためにあえてやっている、ということのようです。他国では許されないような表現の自由を守ってきたのがフランスと言う国である、ということのようです。

辻邦生がフランス語の授業で語ったこと

これを読んで、辻邦生がフランス語の一般教養授業で言ったという言葉を思い出しました。これは、私の仕事場の先輩から聞いた話で、出典は不明ですが、一応紹介します。

フランスは自由の国です。ですから、この授業において何をしようと構いません。ただ、他の人をじゃまをするのはやめてください。

このような趣旨のことをおっしゃっていたそうです。

そうだとすると、冒頭に触れた、反イスラエルのデモも、こういう文脈の中で捉えると、先に触れたように「奥行き」のようなものをよく理解できると思います。

ここまで成熟した社会を作れるのは、フランスが革命の国だからでしょうか。自由を血で勝ち取った国だからでしょうか。

 

こちらの本。「春の風駆けて」。1980年に辻邦生がパリ大学で教鞭をとっていたときの記録です。辻邦生の、かなり「赤裸々」な心情が沢山つめ込まれていて、本当に刺激的な一冊なのです。

春の風駆けて―パリの時
春の風駆けて―パリの時

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ではおやすみなさい。